月別アーカイブ: 10月 2011

丑丸敬史さん@静岡大学が話題提供者として加わりました

静岡大学教授の丑丸敬史さんに話題提供者として加わって頂きました。
丑丸さんどうぞ宜しくお願い致します。

第五回 Bonnie and Clyde

ブランダイス大学の吉田です。
少し古い映画のタイトルを利用させてもらいました。邦題は「俺たちに明日は無い」です。 さて我々の愛する酵母の研究に明日はあるのでしょうか?

トップジャーナルの目次をめくれば今でも毎週酵母を用いた研究が一面を賑わせていますし、転写、翻訳、DNA複製/修復、オートファジー、ユビキチン/プロテアソーム系など酵母研究者がその分野をリードしている分野もたくさんあります。

その一方、 (少なくともアメリカでは)酵母研究へのFundingの状況はますます悪化する一方で研究費が取得/更新できずに潰れて行く研究室が少なからずあります。

もちろん一流の研究室は潰れたりしていないので健全な自然淘汰が機能していると解釈することも出来ます。

今回なぜこういう話題を持ち出したかというとMITのAA教授が酵母でのMitosisのNIH研究費を何度トライしても更新できず酵母Mitosisの研究からは撤退するときいたからです。ご存知の方も多いと思いますがAAさんは酵母細胞周期のリーダーの一人であり現在も華々しい業績をあげ続けているのでその研究に今後続ける価値がないという評価が下されたのは私にとってもショックでした。

彼女は最近始めた動物細胞のAneuploidyの研究でも目覚ましい成果を上げており、そちらの研究は潤沢な資金でサポートされています。したがってAAさんの研究そのものが否定されているわけではなく研究分野やシステムを酵母からシフトさせるような強い選択圧が働いているように感じます。

生物の進化と同じように流行の研究分野やテーマも日々進化を続けています。
研究の世界に自然淘汰がきちんと働くことは研究クオリティを保つために必要なことだと思います。ただしどのような選択圧がかかるのか、誰が選択圧の方向性を決めているのかという点については疑問があるのも事実です。

Bonnie&Clydeのように行き着く先は破滅と解っていながら酵母にこだわるのは愚かなことでしょうか?

私なりの考えはあるのですがそれはいずれ議論したいと思います。

大西雅之さん@スタンフォード大学が話題提供者として加わりました

スタンフォード大学でポスドクをされている大西雅之さんに話題提供者として手を挙げて頂きました。
大西さんどうぞ宜しくお願い致します。

第四回 高効率に複数遺伝子をゲノムに挿入する

投稿者:谷内江@トロント大学

相当雑な思いつきを投稿させて下さい。

夜中ラボからの帰り道、第一回の投稿「酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作」をもとに (1) リニアな二重鎖DNAの末端修復組換えの効率が高いことと (2) 沢山のDNA分子が一斉にuptakeされる形質転換の特性について考えてみました。

(1) のリニアな二重鎖DNAの末端修復組換え効率が相当高いのは、Gibsonらのin-yeast assembly [1,2] にみてとれます。またHO遺伝子 [3] やSceI制限酵素 [4] によってターゲットのDNAを一旦切断しておくとリニアなDNAカセットの形質転換効率が高いことからもわかります。なぜ酵母はこのような高い末端修復組換え効率を持っているのか考えてみて、一瞬、HO遺伝子によるmating typeのスイッチングが効率良く起こらなくてはいけないためかと思いましたが、これはとても視野が狭いものと思い直しました。

これはおそらく減数分裂期の組換えのためだと思います。Spo11は酵母を含めた真核生物では幅広く保存されていて、減数分裂初期特異的に発現し二重鎖DNAを切断し (DSB, double-strand break)、ここを起点に減数分裂期の組換えが起こります [5]。2008年にLars Steinmetzのグループが異なる二つの酵母株を掛け合わせて減数分裂させてマイクロアレイによってゲノム上に起こるcrossover型とnon-crossover型の組換え頻度(組換えホットスポット、コールドスポット)を解析しました [6]。この結果はその前年にMichael Lichtenらによって発表されたSpo11によるDSBのゲノム上の分布 [7] ときれいに一致しました。

(2) の形質転換時にuptakeされるDNA分子の数についてですが、これは一体どれくらいでしょうか?(ありえなさそうですが)一細胞あたり数百-数千分子となるととても面白いことが考えられると思うのです。

守屋さんがご存知かと思いますが、Spo11を一倍体で高発現させるとどうなるのでしょうか?一倍体でDSBが起こると組換えによる修復の余地がなくてsickにならないのでしょうか?

以下「形質転換時にuptakeされるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現がsicknessを示す」という前提で、以下のような思考実験をしてみました。

1. 組換えホットスポットを10個選びます
2. それぞれの組換えホットスポットを狙って挿入されるような10個のDNAカセット(セレクションマーカー遺伝子なし)を準備します
3. ターゲットゲノムを精製し、ソニケーションして断片化します
4. 3の断片化ゲノムプールから選んだ10個のホットスポット周辺のDNA断片をpull-downによって除きます
5. 2と4を混合して形質転換にかけ、Spo11を”理想的なタイミングで一時的にだけ”発現させ、その後通常の培地でインキュベートします

セレクションがなくても高い確率で10個のカセットが挿入された株が得られないでしょうか?

あくまで、「形質転換時に単一細胞あたり取込まれるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現はゲノムをずたずたにして修復の余地もない」という前提ですが、要はSpo11によってゲノムDNAを切断し、そこを狙った末端修復組換えを利用しようというものです。ただしSpo11は狙った部分以外も切断してしまうので4を同時に加えて狙った以外のSpo11切断を補修できるようにします。3の断片化ゲノムプールを加えると準備したDNAカセット以外の元々のゲノム由来のDNA断片で修復されてしまう可能性があるので、ターゲット領域に対応するDNAは除いておこうというものです。

ご意見頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[2] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[3] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[4] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576

[5] http://www.yeastgenome.org/cgi-bin/locus.fpl?locus=SPO11
[6] Mancera E et al. (2008) High-resolution mapping of meiotic crossovers and non-crossovers in yeast. Nature 454, 479-485
[7] Buhler C et al. (2007) Mapping meiotic single-strand DNA reveals a new landscape of DNA double-strand breaks in Saccharomyces cerevisiae. PLoS Biol 5, e324

第三回 酵母の形質転換効率

守屋@岡山大学です。

以前から気になっていた話題が出ましたので投稿します。

それは第一回の谷内江さんの投稿、

それは十分なコンピテンシー(能力)を獲得できる細胞の割合と単位コンピテント細胞あたりの取込めるDNAの量です。これらの技術では一旦細胞がコンピテンシーをもつとDNA分子はいくらでも取込まれることがわかりますから形質転換に重要なファイクターはいかに細胞に高いコンピテンシーをもたせるかということになると思います。

に関わる部分です。(1)コンピテンシーを獲得できる細胞の割合(2)一旦コンピテンシーを持つとDNA分子はいくらでも取り込まれる、この両者、酵母を日常的に使っていると忘れがちになる(あるいは無視している?)事実ではないでしょうか。

1に関して言えば、私も実は全く気にした事がなかったのですが、あるとき京都大学のiGEMのチームが、「形質転換された細胞を(選択をかけずに)顕微鏡下でさがす」ということを目論んでいて、はたと気づかされました。その時は「それは無理じゃないか」と思ったのですが・・・。

これ、yeast_research ML(参加されていない方は是非。Yahoo Groupsです)で、質問したところ東京大学の前田達哉さんから、以下のような返事をいただきました。

広く使われているGietzらの方法だと、一回の形質転換に10^8の細胞を使って、ここに5ugのプラスミドを入れるとtotalで4×10^6の形質転換体が得られたとありました。この条件で細胞全体の4%なので、さらに効率を上げることは可能だと思います。

Yeast. 1995 Apr 15;11(4):355-60.
Studies on the transformation of intact yeast cells by the
LiAc/SS-DNA/PEG procedure.
Gietz RD, Schiestl RH, Willems AR, Woods RA.

前田達哉(東大・分生研)

4%とは微妙な数字です。これをもう一桁あげる事が出来れば、栄養要求性を用いない、ほ乳類のような視覚的な形質転換体の取得が可能になりそうです。4%でもやろうと思えば出来るレベルですけど。今ふと思いましたが、一旦入ってしまえば安定に維持されるプラスミドを用いてGFPをマーカーに用いればもしかしたら可能なのかもしれません。

2に関してですが、

私は2ミクロンベクターのコピー数を数えているのですが、たいてい30コピー程度で安定しています。野生型の2ミクロンプラスミドは複製システムのせいで非常に安定にコピー数を維持できるのですが、ベクター化しているものではこの安定維持システムが一部しか残っておらず機能していないようです(守屋自身が調べてまとめたページです)。

それはともかく、なぜまず始めに30コピー程度まであがれるのか?「最初に入ったプラスミドが不均等分配を繰り返してコロニーを作る頃にはコピー数が高くなっているのだろう」と漠然と思っていましたが、矢内江さんが言うように最初っからドサッと入っているのかもしれません。これは1の実験と組み合わせると観察が可能ですね。

いずれにせよ、Synthetic Biologyで今までにないものを作ろうとすると、酵母研究者が忘れていた/無視してきた重要な事実が浮かび上がってくるようです。

第二回:ホルモンを利用した新しい遺伝子発現制御システム

投稿者:守屋@岡山大学

Fast-acting and nearly gratuitous induction of gene expression and protein depletion in Saccharomyces cerevisiae.
McIsaac RS, Silverman SJ, McClean MN, Gibney PA, Macinskas J, Hickman MJ, Petti A, Botstein D.
Mol Biol Cell. 2011 Sep 30.
PMID: 21965290

David Botsteinのグループが最近発表した論文です。酵母で遺伝子の発現をON/OFFするのに最もよく使われるのがGAL promoterで、その次がMET promoterでしょうか?これらは確かにON/OFFがはっきりして反応も早いという評判なのですが、「栄養条件をかえなければならない」という最大のデメリットがあります。

今回発表されたのは、エストロゲンレセプターの核ー細胞質移行の制御をエストロゲン(β-setradiol)で制御するというシステムです。転写因子の構造が、GAL4DB-Estrogen receptor-VP16ADである事からGEVと呼ばれています。ホルモンを加えてわずか5分で転写活性化が始まるという「迅速な」システム、また、このGEV-エストロゲンによって、GAL遺伝子群を含むわずかな遺伝子しか影響を受けないとのことです。

GEVの良いところは、GAL1プロモーターという今までに非常によく使われてきたリソースがそのまま使えるという事ですね。あ、Tronto大学のグループがやった、GAL1による全遺伝子の過剰発現実験(Sopko 2006)、これも栄養条件を変えずにやることができるようになります。誰かがやろうとするのかな。

それから、ケミカルによる誘導という意味では、Tet-ON/OFFのシステムがありますが、これとこのシステムの差異はどこらへんにあるのでしょうかね?

余談ですが、最近、大阪大学のグループが、KOコレクションとGAL-opコレクション(こちらはGelperin 2005のコレクションです)の増殖測定の再測定を行なっています(Yoshikawa 2011)。まだちゃんと読んでいませんが(ここでまた報告したいと思います)、これまで報告されているのとちょっと違っているようなんです。「増殖速度が落ちる」という単純な測定ですが、定量・大規模データの難しさを表していると思いました。

このホルモンによる遺伝子発現制御システム、これから広まっていくのでしょうか?

最後に、気になるこのホルモンのお値段ですが、Sigma-Aldrichで調べると250mgで5,200円。論文によると10nMで毒性もなくうまく使えるという事で計算してみると、10nMの溶液1Lあたり・・・5銭!!ガラクトース(2%として1Lあたり約100円)よりずっと安い!?

Sopko R, Huang D, Preston N, Chua G, Papp B, Kafadar K, Snyder M, Oliver SG, Cyert M, Hughes TR, Boone C, Andrews B.
Mapping pathways and phenotypes by systematic gene overexpression.
Mol Cell. 2006 Feb 3;21(3):319-30.
PMID: 16455487

Yoshikawa K, Tanaka T, Ida Y, Furusawa C, Hirasawa T, Shimizu H.
Comprehensive phenotypic analysis of single-gene deletion and overexpression strains of Saccharomyces cerevisiae.
Yeast. 2011 May;28(5):349-61. doi: 10.1002/yea.1843. Epub 2011 Feb 22.
PMID: 21341307

Gelperin DM, White MA, Wilkinson ML, Kon Y, Kung LA, Wise KJ, Lopez-Hoyo N, Jiang L, Piccirillo S, Yu H, Gerstein M, Dumont ME, Phizicky EM, Snyder M, Grayhack EJ.
Biochemical and genetic analysis of the yeast proteome with a movable ORF collection.
Genes Dev. 2005 Dec 1;19(23):2816-26.
PMID: 16322557

第一回:酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作

投稿者:谷内江@トロント大学

J Craig Venter Institute (JCVI) が出芽酵母内でのマイコプラズマゲノムの合成 [1]、合成ゲノムのマイコプラズマ細胞への移植 [2] を達成させてからしばらく経ちます。

このプロジェクトではJCVIのSynthetic BiologyチームのDan Gibsonらを中心に発展を遂げた二つの技術が用いられています(それぞれ同様の、または基盤となる技術が以前からありました)。

一つはGibson CBA (chew-back annealing) 法で知られる、互いに30bp程度のオーバーラップ領域をもった複数のリニアなDNA断片をin vitroで一気に連結させる技術です [3]。この技術は、Phusion polymerase、Phusion Taq ligase、T5 exonucleaseを一度にDNA断片と混ぜて反応させるという非常にシンプルでスマートなものです。私の経験では数百bp程度の短いインサートをクローニングするときに非常に優れているように思います。こちらはタカラ (Clontech) がIn-Fusionというキットとして非常に似たような技術を以前から販売していました [4]。In-Fusionはトリックは公開されていませんが、Gibson CBA法とプロトコルも酷似しているので私は同じ技術かもしれないと思っています。

もう一つは、互いに50-70bp程度のオーバーラップ領域をもった複数の非常に長いリニアなDNA断片を全て出芽酵母に一気に形質転換してin vivoの組換えを利用して連結させるin-yeast assembly法です [5]。こちらは守屋さんがお詳しいと思いますが、古くからGap Repair Cloning (GRC) 法として知られているものです [6]。Gibsonらの達成はスフェロプラスト法と組み合わせて数十断片を優に連結できるようにしたところでしょう(LiAc法などでも可)。

JCVIのチームは短いDNA断片を合成し、まずGibson CBA方でそれらを連結してある程度長めのDNA断片を作成し、in-yeast assemblyで長いDNA断片を連結することで完全なマイコプラズマのcircular genomeを合成しました。

いずれの方法も(とくにGibson CBA法)はあらゆる場面で私達のクローニングを面倒な制限酵素のデザインから解放しました。(私はごく限られた場面でした制限酵素を使わなくなりました。)

そして、目立って新しいことではありませんが、in-yeast assembly法やGRC法から私達は直ちに二つを知ることができます。形質転換に重要なファクター(ボトルネック)はおそらく二つあると想像できます。それは十分なコンピテンシー(能力)を獲得できる細胞の割合と単位コンピテント細胞あたりの取込めるDNAの量です。これらの技術では一旦細胞がコンピテンシーをもつとDNA分子はいくらでも取込まれることがわかりますから形質転換に重要なファイクターはいかに細胞に高いコンピテンシーをもたせるかということになると思います。二つ目は、数十のDNA断片を一斉に細胞内で連結できるということは、断片化されたDNA末端での末端修復組換えの効率が非常に高いという事実です。末端修復組換えの効率の高さはHO遺伝子に知られる通りですが、数十の末端修復組換えを一つの細胞で一斉に起こせることがわかります。

現在JCVIのチームのフォーカスは合成ゲノムに対して大量の遺伝子を挿入したり、破壊したりと自由自在に操作するような方向に移っているようです。これに関連して、二つの異なるグループが末端修復組換えの高さを利用した酵母での効率的な遺伝子組み換え手法を提示しています。

一つ目はロックフェラーのFred Crossらの仕事で、HO遺伝子の認識配列をターゲットDNA予め挿入しておき、HO遺伝子にターゲットDNAを切断させた上で種々のDNAカセットと効率よく組換えるというものです [7]。こちらはHO遺伝子のDNA切断/末端修復組換えの仕組みをそのまま使いますから非常に効率が高く、リポーター遺伝子を用いたスクリーニングが要らないほどです。欠点はHO遺伝子を発現させるので遺伝子改変された株でないと性がぐちゃぐちゃに置き換わる点です。

二つ目はJCVIのVladimir NoskovとRay-Yuan Chuangのグループが発表したTRECという手法です [8]。こちらではSceIという18-bpの認識サイトをもった制限酵素を発現させてin vivoでゲノムを制限酵素によって切ってやろうというものです。このグループはSceIサイト-GAL1p-SELI-URA3というカセットでゲノムのある領域を削ったあと、SceI遺伝子の発現を誘導し、カセットの挿入箇所のゲノムを切断、5-FOAによるURA3のカウンターセレクションで効率的にカセット全体をゲノムから消してしまうことが可能であることを示しました。この操作を繰返すことでゲノムをどんどん削れるという提案ですものです。ゲノムを切断するという点ではCrossらとアイディアは同じですが、HO遺伝子ではないので対象株非依存に適用できます。

今日、Jef Boekeらのグループが酵母のゲノムを丸ごと合成しようという野心的なプロジェクトを進めており、最近二つの染色体の半分について合成を終了したと報告がありました [9]。彼らのプロジェクトは後々を想定して様々なトリックを合成ゲノムに仕掛けています。一つはすべての遺伝子コード領域にloxPサイトを挿入しておくというものです。無数のCre-loxP組換えからダイナミックなゲノムリアレンジメントの観察などが可能になります。

さて、酵母の全ゲノムを合成する際にゲノムの様々な箇所にSceIサイトで挟んだURA3遺伝子 (SceI-URA3-SceI)をちりばめて、任意の領域にGALプロモーター-SCEIを入れておくというのはどうでしょうか?

例えば、ゲノムの異なる領域にSceI-URA3-SceIを20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母を作成します。それぞれのSceI-URA3-SceI領域はゲノムに由来する場所固有の配列を外側にもちます。それぞれのSceI-URA3-SceI領域の外側を狙って組換えられる異なったヒトの遺伝子を持ったDNAカセットを20種類準備し、それらを全部混ぜて一斉に形質転換します。ガラクトースを含んだ培地でSceIを誘導し、ゲノムの20領域全てを切断した後、5-FOAでURA3をカウンターセレクトする培地に移します。何が起こるでしょうか。

20箇所で高効率の末端修復組換えが起こり、異なる20のヒトの遺伝子が全て同時に一発の形質転換でゲノムに挿入されると考えました。

JCVIで開発されたTREC法は酵母細胞内でDNAを制限酵素処理しました。GRC法やその発展型のin-yeast assembly法は大量のDNA断片が同時に単一細胞に取込まれ、大量の末端修復組換えが同時に起こることを教えてくれます。一旦SceI-URA3-SceI領域を20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母をテンプレート株作成してしまえば、形質転換するDNAカセットのパターンを変えるだけで様々な組合わせの遺伝子を形質転換一発でゲノムに挿入、ヒトの様々なパスウェイの再構築を簡便に実現できないでしょうか。

これは突拍子もないアイディアの一つですが、酵母のまわりで巻き起こっている合成生物学の発展は私達の発想をどんどん刺激してきます。今回の話題から派生するアイディアはまた次回の話題にさせて頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2008) Complete chemical synthesis, assembly, and cloning of a Mycoplasma genitalium genome. Science 319, 1215-1220
[2] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[3] Gibson DG et al. (2009) Enzymatic assembly of DNA molecules up to several hundred kilobases. Nat Methods 6, 343-345
[4] http://catalog.takara-bio.co.jp/clontech/product/basic_info.asp?catcd=B1000588&subcatcd=B1000606&unitid=U100006645
[5] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[6] http://hismoriya.com/HMwiki/index.php?Gap-Repair%20cloningを使おう%21
[7] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[8] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576
[9] Dymond JS et al. (2011) Synthetic chromosome arms function in yeast and generate phenotypic diversity by design. Nature 477, 471-476

酵母コロキアムをはじめます

「酵母コロキアム」は酵母に少しでも関わる研究者達が普段のラボの中での議論だけでなくラボの垣根を超えて学会等より高い頻度で濃い議論を交わせるようにと岡山大学・守屋とトロント大学・谷内江が発起しました。

有志の酵母に関わる研究者に議題を提供してもらい、広く多様なバックグラウンドをもった国内外の日本人研究者から議論をかき回していただき、酵母研究界にまつわるボールドなアイディア・情報、自由な議論・質問が錯綜するような場所になればと願っております。

現在手を挙げている話題提供者は
岡山大学・守屋 央朗
ブランダイズ大学・吉田 知史
トロント大学・谷内江 望
です。

酵母研究は長年確立されてきた遺伝子工学技術、分子生物学、細胞生物学のバックグラウンドが次世代シーケンサー、大規模コンピューティングなど現代の新技術とも次々とマッチして新しい展開をみせています。酵母を直に扱う研究者だけでなく、バイオインフォマティクス、テクノロジー分野の方々にも参加して頂き、遺伝学、分子生物学、細胞生物学、バイオインフォマティクス、システム生物学、合成生物学を含む様々な観点から議論が展開されることを狙っています。

はじめたばかりでどのような展開を見せていくかまだ未知な部分が多いですが、スタイルは毎回話題提供者が酵母に関連して議論したい内容をポストし、オープンにしてあるコメント欄を利用して広く国内外から議論、関連の質問をして頂くという形をとっています。話題提供者達は前回の議論を継承するような形で話題を提供するように推奨されていますが、その限りではありません。

また随時話題提供者になって頂ける方を募集しています。特に頻度や内容などに制限はございません。
興味をお持ちの方は以下のメールアドレスまでご連絡下さい。

nzm.yachie (a) utoronto.ca

沢山の皆様に積極的にご参加頂き、日本人による酵母研究、生物学、生命科学を盛り上げるのに一役かえればと思います。どうぞ宜しくお願い致します。