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第十回 酵母と進化研究

守屋@岡山大学です。

あけましておめでとうございます、というにはもうちょっと遅いですね。今年もよろしくお願いします。

今回は「進化研究」について書いてみたいと思います。私個人の歴史的見解から申し上げますと、私はこれまで随分と進化研究を毛嫌いしてきました。留学先の私のボス(Mark Johnston)も、進化の研究は「本質的にダーウィニズムで完結している」といってました。更に大きな問題は、「進化を本質的に実験的に再現する事は出来ない」というフラストレーションです。

「試験管内で進化を再現した!!」などといいますが、変異と選択で生物を何らかの方向に変化させる事が出来たというものが大半であり、それは確かに「進化」ではあるのかもしれませんが、生命が誕生してから(どうやって誕生したかも問題ですが)、それがどのような過程をへて今の状態になったのかという事はもちろん再現できません(思いを巡らす事は出来ますが)。

ですが最近この考えが変わってきました。単に私が無知だったというだけの事かもしれませんが、酵母の国際学会に出ていても、進化研究に対する酵母研究者の姿勢が変わってきたのではないかと感じるのです。

最近、Genetics誌に「YeastBook」として、酵母研究のレビューの連載が始まりました。その1回目「Yeast: An Experimental Organism for 21st Century Biology」において、Botstein氏とFink氏が、進化研究にも言及されています(短くではありますが)。

進化研究に再び注目が集まりはじめた理由の1つとしては、この論文にも書かれているように、「Whole genome sequencingやマイクロアレイ技術によって、ゲノムに生じている変化を詳細にとらえられるようになった事」、があげられるでしょう。しかし、私はこれ以外に研究者を進化研究に引き寄せている理由があると思います。

それが、「システムバイオロジー」です。

システムバイオロジーによって生命をシステムレベルで理解しようとした時に、最も重要な視点の1つは、「生命システム設計の原理」を知る事です。特定の生命システムが「何に最適化するように作られているか」、を知らないと1つ1つの要素の存在意義が説明できません。

システムバイオロジーの中心的な研究テーマである「ロバストネス」の発揮の原理を考えるとなおさらです。このシステムは、どのような摂動に対してロバストに出来ているのか?その為にどのような最適化を行なっているのか?またその事によって生じるであろうデメリット(トレードオフ)はどのように回避されているのか?van Oudenaarden氏の酵母のガラクトース感知系の一連の研究などはこの典型的な例だとおもいます。

この時、生命システムは当然ながら長年の進化の歴史によって紡ぎ上げられたものですから、進化の事を考えない訳にはいきません。つまり、システムバイオロジーを突き詰めると進化に進まざるを得ない運命があるともいっていいでしょう。“Nothing in Biology Makes Sense Except in the Light of Evolution”という言葉がある通り、生物学というのは進化の視点がなければ正しく理解できないのですが、システムバイオロジーではこの傾向がより顕著なのではないかと思うのです。

酵母を用いて進化が議論されている研究、最近の例でいえば、Andrew Murray氏の多細胞化の起源についての研究があります。

ちなみに、「進化研究は、生物学の中でも基礎中の基礎なので研究費がつきにくい」という考え方があるように思います。ただ現在の傾向として、「進化を知りそれをコントロールする」ことにより生命を操作したり、疾患を治療したりするという視点が生まれつつあるように思います。これもシステムバイオロジーの発展と不可分に思うのです。

余談ですが、私は、酵母、その中で特に出芽酵母を進化研究に向かわせたのには、もう1つの理由があると思います。それは、Whole Genome Duplication(WGD:全ゲノム重複)です。これについては、また稿を分けて書いてみたいと思います。

というわけで、今回は(私の場合はいつもかもしれませんが)、エッセーというか思いつきを書きなぐってみました。皆さんのご意見、反論お待ちしています。