月別アーカイブ: 12月 2011

第九回 HO遺伝子

谷内江@トロントです。ラボメートがこんなメールをくれました。

I hear HO is Santa’s favorite yeast gene.

Happy Holidays!

第八回 プラズモダクション

トロント大学の谷内江です。

今日のトロントは氷点下5度でした。年が明けたら氷点下20度まで下がります。

守屋さんが話題提供して下さった「第三回 酵母の形質転換効率」の議論の中で、酵母の形質転換に関してその効率や、細胞質に取込まれたDNAが核内へどのように移行するのか、プラスミドの導入が難しい株などについて話題になっていました。

これらに関連して今回はプラズモダクションによる形質転換について書いてみたいと思います。

酵母の形質転換は一般的にリチウムアセテイト法、スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法が用いられますが、これらの方法はいずれも酵母のコンピテント細胞の作成が必要で、手間の割に高い効率が得られません。スフェロプラスト法で数%程度でしょうか。

ライブラリースケールの形質転換でよく用いられるのはリチウムアセテイト法ですが、一般的に96ウェルのプレートを用いるなど反応のスケールが小さくなります。私が簡便でライブラリースケールの形質転換によいと思うのはZymoresearch社のEZ transformation kit(リチウムアセテイト法)[1] ですが、株によっては上手くプラスミドの導入ができず形質転換効率は常に問題になります。

システマティックなスクリーニング技術の発展とともに、ある特定のプラスミドをいろんな遺伝的バックグラウンドをもった株群にライブラリースケールで導入したいという要求は増えてきました。守屋さんが最近発表されたgTOWの仕事(2D gTOW)[2] にもそういった要求がありそうです。

そこで便利なのがコロンビア大学のRodney Rothsteinらが2002年にMethods in Enzymologyに書いたプラズモダクション(plasmoduction = plasmid + induction)です [3]。

プラズモダクションは交配と紡錘体極体(spindle pole body)の複製に関わるKAR1という遺伝子のアレルkar1∆15を利用します(KAR1のbiologyは吉田さんが詳しいでしょうか)。

kar1∆15の一倍体株は交配によって二倍体を形成することができますが、核を融合させることができません。つまり交配によってできた二倍体には一倍体由来の二つの核が存在することになります。

[条件]と[手法]はシンプルです。

[条件]

形質転換のターゲットとなる「レシピエント」の株はcycloheximideやcanavanineに非感受性のアレル(can1^Rcyh2^R)をもつ必要があり、もちろんプラスミド導入のためのマーカー遺伝子が利用できる遺伝型である必要があります。

[手法]

1) 「ドナー」としてkar1∆15であり、cycloheximideやcanavanineに感受性を示す(CAN1^SCYH^S)株を準備します。

2) 「ドナー」株に目的のプラスミドを形質転換します。

3) 「ドナー」と「レシピエント」を交配させます。二倍体では細胞質は混ざりますが、一倍体由来の二つの核は融合しません。

4) ここでプラスミド上にあるマーカーとcycloheximideやcanavanineで細胞を選択します。

このようにして細胞質を経由して移ってきたプラスミドを選択しながら「ドナー」由来の核自体の脱落を誘い、「レシピエント」由来の核「だけ」とプラスミドをもった株が選択できます。

酵母の高い交配効率によって高い形質転換効率を得ることができます。

kar1∆15アレルを利用することで「ドナー」と「レシピエント」の染色体がぐちゃぐちゃに混ざることもありません。

一旦「ドナー」株を作ってしまえばどんどん色んな株にプラスミドを導入できます。対象株群のコンピテント細胞を一つ一つ作る手間も必要ありません。YPDを用いて1:1で「ドナー」と「レシピエント」を96ウェルプレート内で混ぜて、プレートを遠心し、数時間インキュベートして選択にかけるだけという流れになるでしょうか。

コンピテント細胞を作る手法で形質転換が上手くいかない場合によいかもしれません。ラボに一株、プラズモダクション「ドナー」株があると便利そうです。

懸念されるべきは「レシピエント」側に交配関連遺伝子の欠損があった場合は上手くいかないかもしれないという点です。

私が疑問に思った点は、「ドナー」の核から「レシピエント」の核にそんなに簡単にプラスミドが移行するのかという点です。小さな(?)プラスミドは高い確率で核から出たり入ったりしているのでしょうか?

また、核が融合しない性質は、ある特定の細胞由来の核を別の細胞の任意の細胞質形質と同時に選択するのに役立つかもしれません。

前回の「第七回 酵母はなぜ胞子を作るのか」での議論に戻りますが、古い細胞のprotein fociを蛍光マーカーとプローサイトメトリーで選択しながら若い細胞の核とアッセイすることができるでしょうか?

 

[1] http://www.zymoresearch.com/product/frozen-ez-yeast-transformation-ii-kit-t2001

[2] Moriya H, Chino A, Kapuy O, Csikász-Nagy A, Novák B (2011) Overexpression limits of fission yeast cell-cycle regulators in vivo and in silico. Mol Syst Biol 7, 556

[3] Georgieva B, Rothstein R (2002) kar-mediated plasmid transfer between yeast strains, an alternative to traditional transformation methods. Methods in Enzymology 350, 278-289