第七回 酵母はなぜ胞子を作るのか

はじめまして、スタンフォード大学でポストドクトラルスカラーとして働いています、大西雅之と申します。現在はJohn R. Pringleの研究室で、出芽酵母の細胞質分裂に関する研究を行っております。今回コロキアムの話題提供者としてお声をかけていただき、他の提供者の方々と名前を並べていただくことに恐縮していますが、精一杯つとめたいと思っております。

個人的には大規模解析やシステムズバイオロジーにも興味を持っており、いくらか手を出している部分もあるのですが、これらの分野についてはエキスパートがいらっしゃるので、私はなるべくちょっと変わった話題を提供して行ければと思っています。

今回は「酵母はなぜ胞子を作るのか」という点について、面白い視点を提供した論文をご紹介します。

ご存知の通り、二倍体酵母細胞(今回は出芽酵母についてのみ議論しますが、分裂酵母の胞子形成については[1]など)は栄養が枯渇した条件にさらされると増殖を停止し、減数分裂と胞子形成を行います。作られた4つの一倍体胞子は、環境が改善すると発芽し、通常は近傍に存在する異性細胞と接合して二倍体に戻ります[2]。

研究室で容易に胞子形成を誘導でき、特定の遺伝型を持った一倍体胞子を単離し、目的に合致した株を作成できるという酵母の性質は、遺伝学を容易かつ迅速に行うことを可能にします。我々研究者にとっては大変ありがたい特性であり、酵母をスーパーモデル生物としての地位に押し上げた一番の要因の一つでもあります。さらに、胞子形成は配偶子形成(これは当然ですね)・新規オルガネラ形成・オルガネラソーティング・細胞分化・細胞内膜輸送・細胞質分裂など、様々な現象のモデルと考えることも出来ます。そのため、減数分裂と胞子形成の誘導・進行の分子メカニズム、つまり酵母が「どのように」胞子を作るかについてはこれまで多くの研究が精力的になされてきています[3]。

しかし、酵母は「なぜ」胞子を作るのでしょうか。

Stony Brook UniversityのAaron Neiman研究室およびMaurice Kernan研究室が、2008年に出した論文において、『ハエによる捕食を介して新たな環境に移住するため』ではないかという仮説を提唱しました[4]。詳細は論文(および、このエントリーを書いている間に発表されたレビュー[3])に譲りますが、
– 胞子とG1停止した栄養増殖細胞を比較すると、自然界に存在するほとんどのストレス(温度、浸透圧、凍結など)にはG1停止細胞で十分な耐性を示すが、高低pHや酵素による代謝には胞子のみが耐える
Drosophila属のハエは酵母を補食する
などの知見・観察を動機として、胞子とG1細胞でハエに食べられたのちに便の中で生存している割合を比較する実験を行い、胞子の方が約50倍高い生存率を示すことを見いだしました。
さらに、この被食耐性には、胞子特有の細胞壁であるジチロシンおよびキトサン層が重要とわかりました。酵母の分散にハエが貢献していることは古くから知られていましたが[5]、今回の例は捕食を介していることをきちんとしたアッセイで示し、減数分裂を行って胞子を作る意義に新たな提案をしていることが新しいと言えます。

今回の論文では実験動物としてDrosophilaが使用されていますが、他の昆虫や動物がかかわっている可能性も十分に考えられます。ハチや鳥などはありえそうな例ですし、キノコを食べるカタツムリやナメクジなどもあるかもしれません。我々が胞子嚢を分解するのに使うグルスラーゼはカタツムリ由来です。

植物・菌類(きのこ・かび)・珊瑚などの多くのimmobileな生物において、有性生殖期(花粉・胞子・遊走子・幼生)は生活環におけるmobile phaseとなっています。新しい環境に適応するために遺伝的多様性を増やすという戦略と考えられます。基本的にimmobileでありながら、胞子も移動能を持たない(カビと比べると飛散能がほとんどない)酵母は、生活環に明らかなmobile phaseが存在しない、ちょっと変わった生き物と言えます。ハエ(または他の動物)による運搬という戦略は、酵母に分散能を与えるだけでなく、ただ飛散するよりも高い確率で生存可能な環境(=ホストの好む食物)に移住できる可能性が高いという点で、非常に優れているのではないでしょうか。

さらに出芽酵母は、通常は高い確率で同じ胞子嚢由来の胞子と接合してしまうinbreeding指向を持っていますが、Drosophilaによる胞子嚢およびinter-spore bridgesの分解によって、outbreeding指向を高められることが報告されています[6]。一匹の昆虫が、花から花へと蜜を求めて飛び回りながら胞子を集め、その後一カ所にまとめてフンをすることで、outbreedingの確率があがることになります。

このように色々とスペキュレーションが膨らむ、非常に説得力のある「昆虫による分散のための胞子形成」仮説ですが、では自然界では胞子形成はどのような環境で起こるのでしょうか。上では胞子形成条件は窒素飢餓としましたが、より正確には「窒素源飢餓+non-fermentable carbon sourceの存在」となっています。non-fermentable carbonとしては、最も有効なのは酢酸塩(アセテート)であることがわかっています[7]。自然界でこのような条件が揃うのはどのような場合でしょうか。恥ずかしながら、私はうまい例が思いつかなかったので、Aaron Neiman博士に直接質問してみました。公式な答えとしては、「出芽酵母の生態について、わかっていることが少なすぎるため、はっきりとした答えは出せない」ということでしたが、あくまで可能性、スペキュレーションであると前置きして、一つの例を挙げてくださいました。酵母と言えばワイン(日本人なら日本酒ですが)ですが、その原料葡萄の表面に酵母とともに多く存在するのが酢酸菌、特にアセトバクターです。アセトバクターは、エタノールを代謝して、アセテートに変換します。ワインにアセトバクターがコンタミネーションすると、ワインビネガーになります。酵母が葡萄の表面である程度生育したあと、アセトバクターが取って代わって優占種になったような状況が、元々少ない窒素減が枯渇しアセテートが蓄積した、胞子形成条件にあたるのではないか、とのことでした。アセトバクターの代謝によって酸っぱくなった(腐った)葡萄は、ハエの大好物でもあるそうです。
繰り返しになりますが、これはあくまで一つの可能性に過ぎません。出芽酵母は様々な場所から単離されています。他の可能性について、ぜひコメントをお願いします。

ハエやハチなど、糖類を主食とする昆虫は、体内外に多くの酢酸菌を保持していることが知られています[8]。体内の酢酸菌は、主食の糖の代謝を行うことで、ある意味宿主の食性を定めているということも出来ます。これは私の妄想ですが、酵母・酢酸菌・ハエの三者間に一種の共生関係が見えるような気がします。共生(symbiosis)の定義は人によってかなり違うので、共進化(co-evolution)と言っておいた方が安全かもしれませんが。いずれにせよ、今回ご紹介したような論文は、我々が何千年も工業利用し、何十年も研究に使ってきた出芽酵母という生き物ですら、その生態や進化について「わからない」ことが多いということを示す良い例ではないでしょうか。

今回ご紹介した話題は出芽酵母でしたが、論文中では分裂酵母の胞子もハエによる捕食にある程度耐えることが示されています。他の酵母類でどうなるのか、興味深いところです。数百個の胞子を作る出芽酵母の一種Kluyveromyces polysporusなど、もしかしたら個体数の割に地理的分布が進んでいたりしませんでしょうか。

次回は、胞子形成シリーズ2として、『寿命のリセット(rejuvenation)は胞子形成の動機たり得るのか』というトピックについて議論・検証したいと思っています。(本来は一つのエントリーにするつもりでしたが、長くなってしまいました。)

1. Shimoda, C., Forespore membrane assembly in yeast: coordinating SPBs and membrane trafficking. J Cell Sci, 2004. 117(Pt 3): p. 389-96.
2. Neiman, A.M., Prospore membrane formation defines a developmentally regulated branch of the secretory pathway in yeast. J Cell Biol, 1998. 140(1): p. 29-37.
3. Neiman, A.M., Sporulation in the Budding Yeast Saccharomyces cerevisiae. Genetics, 2011. 189(3): p. 737-65.
4. Coluccio, A.E., et al., The yeast spore wall enables spores to survive passage through the digestive tract of Drosophila. PLoS One, 2008. 3(8): p. e2873.
5. Gilbert, D., Dispersal of Yeasts and Bacteria by Drosophila in a Temperate Forest. Oecologia, 1980. 46(1): p. 135-137.
6. Reuter, M., G. Bell, and D. Greig, Increased outbreeding in yeast in response to dispersal by an insect vector. Curr Biol, 2007. 17(3): p. R81-3.
7. Croes, A., Induction of Meiosis in Yeast. Planta, 1967. 76: p. 209-226.
8. Crotti, E., et al., Acetic acid bacteria, newly emerging symbionts of insects. Appl Environ Microbiol, 2010. 76(21): p. 6963-70.

投稿日: 2011年11月26日 | カテゴリー: 酵母エコロジー | パーマリンク 17件のコメント.

  1. 守屋@岡大です。

    この仮説は初めて知りましたが、いやぁ〜面白いですねぇ。

    動物に食べられた植物の果実の種子だけが消化されずに糞に混じって排泄されるという、これまた共進化の仮説のアナロジーもあってとても面白いです。ちなみに酵母はハエの糞を栄養に出来るんでしょうかね。

    これは、「接合ー減数分裂の必要性」ではなくて、あくまでも胞子という特別な構造体をなぜ作るか、という事ですよね?接合ー減数分裂はするけれども胞子という構造を作らない酵母に近い生物がいればこの仮説の信憑性はより高まるように思いますが。

  2. 谷内江@トロント大です。大西さん、大変興味深いエントリーをありがとうございます!面白い仮説でとても勉強になりました。素人考えですが、(1) 進化的な観点からと (2) エネルギー消費の観点から思いついたことを二つ議論させて下さい。

    (1) 昆虫が胞子を補食によってばらまきout-breedingを促進していること、それが進化上酵母に有利に働くだろうことには疑問がありません。一方で「昆虫による補食が酵母の胞子形成を(進化的に)生んだか」という命題には私は懐疑的です。はたして昆虫の登場は胞子形成をする酵母より早かったでしょうか?

    (2) 胞子形成は飢餓状態においてエネルギーを消費しないで済むように細胞活動を停止させる手段ではないのでしょうか?一方で、そういう風に考えると、飢餓状態を察知した直後に二倍体細胞が胞子を形成するためのエネルギーを二倍体細胞が常に蓄えておかなくてはいけないのでしょうか?二倍体が細胞周期のどの状態にあると胞子を形成しやすいか知られているのでしょうか?P-body(タンパク質・RNA凝集体)を形成している細胞の方が胞子形成しやすかったりするのでしょうか?おそらく次回大西さんが議論して下さるAngelica Amonラボの「酵母の胞子形成による若返り」論文では胞子形成によるprotein fociの消失が報告されていました。論文内ではprotein fociは老化の指標として扱われていましたが、実は貴重なエネルギー源だったりするでしょうか?

    質問ばかりになってしまいました。

  3. 連続投稿をすみません。守屋さんのコメントをみてもう一つ思いました。減数分裂と接合(または性の存在そのものは)ダイナミックかつ合理的な進化のための生命の持つ美しい機構の一つですが、ダイナミックな進化というのは生命が危機にさらされた際に特に必要なものだと考えられます。そうすると減数分裂と胞子形成という本来別のものでもよさそうなものが一致した活動であることは合点がいきます。胞子形成が結果的に「風任せ」的な機能をもっていることは確かでしょうが、守屋さんがおっしゃるように「風任せ」敵な機能を「進化的に獲得した」事を示すような例はないでしょうか。

  4. 大西雅之@スタンフォード

    早速熱いコメントを頂き、ありがとうございます。

    @守屋先生
    ハエの糞が酵母の栄養になり得るかという疑問、動物の糞と植物の種子とのアナロジーからの連想でしょうか。あり得ないとは言えないと思います。動物の糞と似ているとすると、高い濃度の窒素(+リンその他の重要元素)が含まれて入れば窒素飢餓だけはリセットされますね。そこに果実や蜜からの糖が加われば、発芽条件が整いそうです。

    今回の内容は、胞子という特殊構造を作る動機として地理的分散を提案していますが、減数分裂の動機も基本的に地理的分散(移住後の適応能を高める)と考えられると認識しています。一カ所に留まっている場合、「大規模な環境の変化がないかぎり」、既に固定されている遺伝形質にしがみついた方が有利なはずです。そういう意味で、減数分裂を行うけれども、出芽酵母タイプの被食胞子を作らない生物は全て胞子自身もしくは接合子が移動能を持つか、他のベクターに頼るように思います。

    といいつつ、これは完全に私の想像ですので、間違っているかもしれません。例えば分裂酵母は胞子に移動能がありませんし、胞子壁にジチロシン層を持っていないためハエに食べられた時の生存率は出芽酵母胞子の1/3です。これを高いと考えるか低いと考えるかは難しいところですが、他の守屋先生のおっしゃるような酵母が存在するかもしれません。

    @谷内江さん
    (1)昆虫による捕食が「菌類一般の」胞子形成を進化的に生んだかについては、私も否定的です。
    しかし、『出芽酵母タイプの』胞子形成が昆虫による捕食への適応として進化した可能性はあり得るのではないでしょうか?つまり、元々は飛散能を持った胞子を作っていたカビのような菌類の中で、被食耐性を持ったものが適応し、その過程で飛散能を喪失した可能性はあるかもしれないと思います。
    現在、形態的に出芽酵母と似た胞子を作るのはSaccharomyces cladeとArchaeascomycota (S. pombe, S. japonicus, etc)だけだと思いますが(きちんと調べていないので自信はありませんが)、この二つはFungiの中では進化的に遠く隔たっています。今回の論文でS. pombeもいちおう被食耐性を示していますので、もしかしたら収束進化が起こった可能性を示唆しているのかもしれません。

    とは言え、このような仮説(妄想?)は実験的に実証するのが非常に難しいと思います。とりあえずゲノムが読まれている全ての菌類について胞子をハエに食べさせて、被食耐性と有為にリンクする遺伝子を見つける、とかを考えたんですが、収束進化だとすると異なる遺伝子でしょうから、この方法は駄目ですね。

    すみません、時間の都合で(2)についてはあらためてコメントさせていただきます。

  5. 谷内江@トロント大です。

    なるほど出芽酵母タイプの胞子形成ということですね。出芽酵母タイプ以外の胞子が昆虫に補食後便内で生存できないことは知られているのでしょうか?

    遺伝子の同定は私の前の話題に戻りますが、バーコード化された二倍体遺伝子欠損コレクションプールに胞子形成させて便内のpopulationを見ることなどできるかもしれませんね。

  6. 守屋@岡大です。

    「バーコード化された二倍体遺伝子欠損コレクションプールに胞子形成させて便内のpopulationを見ることなどできるかもしれませんね。」

    これは面白い!!菌株をまぜまぜにしてハエに食わせてそのうんちのポピュレーションを調べる・・・発想がいい。ただ、BY4741などのS288C系は胞子形成がイマイチなのでコントロールが難しいかもしれませんが・・・というかその前にコレクションを使って胞子形成に異常をきたす遺伝子というのは網羅的にとられているんでしょうか。

    ポジティブセレクション(生き残りやすい株の選択)ならば簡単に出来そうですね。変異を入れておいてハエに食わせ、便から取り出して培養して、また変異を入れてハエに食わせる・・・を繰り返すとvegetative cellでもハエに耐性を持つ酵母が作れるかもしれません。ハエによる酵母の選択がありうる事を示せるという意味では面白い。

  7. 谷内江@トロント大です。

    二倍体欠損株コレクションがそもそもまだないように思います(簡単に作れそうですが)。作ってみるといろいろと面白いことが出来そうですね。

  8. すみません、homozygous collectionありました。

  9. 胞子形成に異常をきたす遺伝子は、クラシックな遺伝学でspo遺伝子として同定されているものが数多くありますが、コレクションを使って網羅的に調べた例はなかったように思います。
    「胞子形成時に発現が亢進する遺伝子」の破壊株サブコレクションは既に作られていて、今回ご紹介した論文でも使用されています。

    私は出芽酵母の胞子形成研究を完全にフォローしきれていませんので、誰か詳しい方がchime inして下さると良いのですが。

    胞子形成のように、ある程度長く研究されている現象について、全遺伝子破壊株について改めて調べなおすというのは、新たな遺伝子が同定される期待値が低いという点でモチベーションが上がりにくいのかもしれません。
    その点で、谷内江さんや守屋先生の提案されているような新しいアッセイ系を用いるのは楽しそうですね。ハエを用いた方法はまさにpopulation geneticsなので、バーコードシークエンシングと親和性が高そうです。

  10. 吉田です。

    大西さん、
    おもしろい仮説ですね。植物が果実を鳥に補食させることで種子を広範囲に拡散させることの類似性だけでなく、ハエに補食されることがOut breedingを促進させうるという見解は目から鱗が落ちました。

    胞子をわざわざ作る理由ですがやはり環境変化への抵抗という点が一番大きいのではないでしょうか。正確な文献は引いたことがないのですが、胞子のもつ温度や飢餓に対する抵抗性はG0期の細胞とでも比べ物にならない程高かったと理解しています。
    自然界では2倍体がデフォルトのはずですので栄養源や水分が枯渇した場合にはG0で停止するよりも胞子形成した方がより長い期間生存できるうえ、減数分裂による遺伝子組み換えで新たな環境に適応しやすくなるという2重のメリットがあります。

    谷内江さんの質問にありました「胞子を形成するためのエネルギーはどこからくるのか?」という点ですが、オートファジーの変異体は減数分裂できないので自食が必要なことは知られています。自食で充分な窒素源と炭素源が賄えるのかはわかっているのでしょうかね?

    それからコメントで話題に上った胞子形成変異体の網羅的解析ですがこれもまた(!)Angelika Amonのグループが2004年にサイエンスに報告しています。
    http://www.sciencemag.org/content/303/5662/1367.full?sid=d878d7ae-dd49-4dec-8c82-4bc8dee911f3

  11. 谷内江@トロントです。

    吉田さん、やはり自食が必要ですか。窒素源、炭素源として古い酵母ほど蓄積し、胞子形成時に消失するprotein fociを挙げてみましたが、どうでしょうか?年寄りほど胞子形成しやすいとか簡単に調べられそうですね。

  12. 損傷蛋白質のアグリゲーションはやはりオートファジーで分解されているのでしょうかね?わざわざシャペロンを使って解きほぐしていたらATPの無駄遣いになりますから。

    経験的には若いフレッシュな細胞の方が減数分裂に入りやすい気がしますね。イキの良い細胞の方が減数分裂という分化のプロセスを乗り越えるには都合が良いのでしょう。

    減数分裂とは異なりますが通常状態 (NQ; non quiescence)の細胞が栄養飢餓により安定な静止状態(Q; quiescence)に入るときもNQが徐々にQに変化するのではなくNQ細胞が一度分裂してNQとQ細胞を生み出すようです。http://www.molbiolcell.org/content/22/7/988.full
    まるでStem Cellの非対称分裂そのものですね。

  13. 谷内江@トロントです。最新のCellにmeiosisではありませんが、mitosisでHsp104によるprotein agrregatesの”分配”の話がのっていました。

  14. 吉田です。

    谷内江さん、

    長寿遺伝子Sir2がアクチン骨格系を制御して老廃物の非対称分配を制御しているというNystromらの提唱とそれに対するRong Liの反論ですね。面白い仮説だとは思うのですが一連の論文を読んだ個人的な感想はSir2の役割は積極的なものではないというRongの反証論文のほうに説得力があるように思います。

    出芽酵母の場合出芽という分裂様式から母と娘細胞の区別がつき、老化を研究することは比較的容易です。面白いのは対象分裂をする分裂酵母でもSir2が細胞内老廃物を非対称に分配させているという報告です。
    http://www.pnas.org/content/105/48/18764.abstract?ijkey=1360a95719c6dfcfbfb15da69720b0389acac2fa&keytype2=tf_ipsecsha

    Sir2と老化の関係は未だに紛糾中ですし(http://www.nature.com/news/2011/110921/full/news.2011.549.html)Sir2の標的に関してもまだ解らないことだらけですね。
    酵母の老化は一度正式な議題として議論してみたいです。

  15. 谷内江@トロントです。

    吉田さん、対象に分裂する分裂酵母でも老廃物の分配は非対称だということですが、老廃物の非対称分配からはエネルギーコスト削減と細胞の一部犠牲というトレードオフの関係が見えるように思います。

    分かりきったもしくは粗雑な思考実験かもしれませんが、以下、老廃物の均等分配を考えたモデルです。

    1世代で(ある程度の消化も含めて)xの老廃物が蓄積するとすると、第2世代の分裂直前までに1.5xの老廃物が蓄積していることになります、第3世代には1.75x、第4世代には1.875xです。このまま第10世代までいくとほぼ2xとなりこのまま2xでsaturateします。

    2xの老廃物を常にひきずって細胞機能の様々を達成しなくてはいけないことになります。

    さてここで実際の分裂酵母細胞で考えられる生命システムの戦略は三つです。

    戦略A 2xの老廃物を常に引きずるか
    戦略B 老廃物の消化能を向上させるか
    戦略C 非対称分裂によって片方に多めに押し付けるか

    結果的に分裂酵母で戦略Cとられているように見えるということは、老廃物は細胞機能に負の効果をもつ相当邪魔なものであろうこと、「老廃物の消化は一部の細胞を犠牲にしてもいいほどエネルギーコストが高い」ということになるでしょうか?

    私は老廃タンパク質の細胞生理について詳しくありませんが、本当にそうなんでしょうか?

    それとも単に老廃物は細胞に負の影響があるわけでもなく、老廃物の非対称分裂も他の機能に付随するだけのものでしょうか?

    いずれにしても、頭の方の話題に戻りますが、胞子形成時に老廃物を解消するための(高い)エネルギーはどこからくるのか。なぜそのメカニズムは体細胞分裂では機能しないか。興味があります。

  16. 丑丸@静大です。
    私はTOR (target of rapamycin)の研究をしているので、栄養源飢餓応答を一応やっていることになっています

    大西さん提供の話題ですが、他の方も指摘していたように、たまたま、胞子のその形質が役に立っている、というところが真実ではないでしょうか。

    西洋で中世にペストが流行ったことで、現在エイズにかからない西洋人がある一定の割合いるということを想起しました。ペストとエイズが免疫細胞の同じタンパク質に結合して細胞内に進入するため、異なるアリールを持っていてペストの流行にも死ななかった生き残った人がエイズにもかからなかった、という話しをきいたことがあります。間違っていたらすみません。

    ある表現型が別の局面で優位になるというのはそう珍しいことではないでしょう。

    胞子形成のきっかけをみてもまず第一は飢餓応答と考えてよいでしょう。

    G0、胞子、どちらも当てはまりますが、結局、コンビニ等の企業(酵母に相当)は好景気(栄養豊富に相当)には拡大戦略(細胞増殖に相当)をとるが、不景気になったら、方針を転換して既存の店舗が潰れない(死なないことに相当。もしくは何割りか潰してもいいから)ことを最優先し生き残りを図る。

    そして、その胞子がどのような性質をもっているかというと、仮死状態(つまりエネルギーフリー)となりその間は様々な環境ストレスにも耐える、ハスの種のような、クマムシのような、特性を上手に獲得できたいきものの子孫を我々はみていることになると思います。

    でも、進化的には新参者のハエを利用して、分布域を広げるというのは、酵母もやるじゃないの、と思います。

    そして発酵と言う芸当を人間にみせて、人間も利用して自分の子孫を世界中に広げている、かしこい、酵母! 
    当研究室でも私らを使役して日夜子孫が増やしています(大多数は研究の名の下に尊い犠牲になっていますが)。

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