Yeast Meeting at Princeton

谷内江@トロント大です。

みなさん今年はYeast Meetingがプリンストンで開催されます (7/31-8/5)。
http://www.yeast-meet.org/2012/

アブストラクト投稿deadlineは4/26だそうです。私行こうと思っています。
情報まで。

第十四回 酵母フランケンゲノムとDNAシーケンス戦争

谷内江@トロント大です。

今回は以前yeast_researchメーリングリストに投稿した「フランケンゲノム」の内容を編集して投稿します。

私達がゲノム情報にアクセスするとき、特にSNPなどの変異を議論をしたければその情報ソースを知る事はとても重要です。生物学はデータベースがとても充実していますが、それを使用するときは(議論する対象に応じて)裏をとる必要があります。

良い例がSaccharomyces Genome DatabaseのS. cerevisiaeのゲノムです。2011年4月まで(もしかして今でも [後述])長らく私達がS. cerevisiae S288c株のリファレンスゲノムとして取り扱ってきたゲノムは、複数のグループがそれぞれの染色体(またはその一部)を担当してサンガー法で解読されたものでした。このときに、どのようなコンセンサスがあったのか、またはコンセンサスなんて無かったのか、異なるグループが異なるS288c株のderivativesを選んで解読しました。一つのグループが一つの染色体に対して異なる株を使用していた例もあります。したがって、2009年4月まで皆がS. cerevisiae S288c株のゲノムとしていたもの(UCSCブラウザでsacCer2およびsacCer1にあたるもの)はいろんなS288c株近縁種のゲノムがごちゃまぜに繋ぎ合わされたゲノムでした。これを本当のS228cだと誤解している人が多いと思うのですが、私達はこれをフランケンゲノムと呼んでいます。
http://www.yeastgenome.org/cache/chromosomes.shtml

2009年になると、Ed LouisのチームがSanger Instituteと組んで第二世代シーケンサーを使ったリシーケンスを大量の酵母株についてやりました [1]。ご存知のように第二世代シーケンサーのリード長は短いので、de novoでシーケンス結果をアセンブルするのではなく、既存のリファレンスゲノム(フランケンゲノム)にDNAリードをアライメント(マッピング)して、SNPやindelを同定する形でそれぞれの株のゲノムを再構築しました。この様々な酵母株群のゲノム情報は以下のSanger Instituteのウェブサイトから取得することができます。
http://www.sanger.ac.uk/research/projects/genomeinformatics/sgrp.html
http://www.sanger.ac.uk/gbrowse/gbrowse/cere_dmc/

しかしながら、この仕事ではそれぞれの株についてread depth(それぞれの塩基について短いシーケンスreadがマッピングされた回数)が10x以下ですのでまだまだ信頼できるゲノム情報と言えるものではありません。

現在S288cについては十分なread depthで第二世代シーケンサーによるリシーケンスが完了し、UCSCでは去年からバージョン3(SacCer_Apr 2011/sacCer3)という形でS288cの完全なゲノムが利用できる状態です。先日SGDのマイク・チェリーさんとテレコンしたときはSGDにもこの新しいゲノム情報をフランケンゲノムと交換して載せると言っていましたが、アップデートされているか定かではありません。したがってSGDはまだフランケンゲノムを使っている可能性があります!

去年、私達のチームはBY4741/2のゲノムをread depth 100x以上で解読し、S288cゲノムバージョン3と比較して数百のSNP/indelがあることを見つけました。近日中に公開予定です。

他にも様々な大規模酵母ゲノムプロジェクトの話を耳にします。

酵母のリシーケンスが進む一方で、Illumina社などが販売する第二世代シーケンサーによるリシーケンスはどんなに十分なread depthをもってしても150bpなどの短いリードによるシーケンスです。SNP/indelなどの情報を見つけるには十分にしても大規模なゲノムリアレンジメントやリピート領域のリシーケンスには不十分です。この問題はすぐに第三世代シーケンサーとよばれるシーケンサーが解決します。

ここで第三世代シーケンサーを概説することはしませんが、例えばNanoporeという直径20nmの穴にDNAを通してサンガー法よりも遥かに長いリード(数kb)をシーケンスする技術 [2] を使って最近Oxford nanopore社が嘘のようで本当の衝撃的なシーケンサーのモデルを発表しました。使い捨てでUSBスティックのシーケンサーです。


http://www.nanoporetech.com//technology/minion-a-miniaturised-sensing-instrument

どうも私達は数年以内にUSB使い捨てシーケンサーを自分たちのラップトップに差し込んで、瞬間的にゲノムを解読する時代を迎えるようです。第三世代シーケンサーが登場しても短いリード長のDNAをパラレルに大量に解読する第二世代シーケンサーの有意性はまだまだ残りますが(例えば以前話題にしたバーコードシーケンス)、DNAシーケンステクノロジー(およびそれをめぐる経済戦争)は目紛しく動いています。ライバル同士の反応も過剰です。

http://www.forbes.com/sites/matthewherper/2012/02/18/who-doubts-the-usb-thumb-drive-sequencer-a-rival/

例えば数秒間で$100で自分のラップトップで一細胞のゲノムが読めるような時代に酵母で何ができるでしょうか?加熱するDNAシーケンス戦争で勝たなくちゃいけないとは思いませんが、来るべき時代に頭を備えておくと良さそうです。

[1] Liti G et al (2009) Population genomics of domestic and wild yeasts. Nature 458, 337-341
[2] http://en.wikipedia.org/wiki/Nanopore

第十三回 遺伝子変異における寛容性、ロバストネス

丑丸@静大です。

卒研発表等も終わって年度末のほんのひと時の比較的時間を享受している今日この頃です。
忙しくて参加できずにいた間、溜めていた質問(問題提起)を続けてさせていただきます。

今回の題名は勿論、守屋さんを念頭においたものです(笑

我々はその必然として時間軸において切り取られた生物を観察対象にせざるを得ないわけで、常に意識下に「現在における」という限定された現象を見ていると自覚することが大事と自分に言い聞かせてはおります。

今回はそんなことを考えている中での疑問なわけですが、
個々の遺伝子は常に変異し(hypoactiveな変異を念頭に)、間引かれ、集団内で浮動するものであれば、そのような個々の遺伝子変異に対する細胞としての寛容性、ロバストネスはどのようになっているのでしょうか、ということです。

ケース1
極端なケースとして、ロバストネスが全くない世界では、1つの遺伝子が変異したらその個体は即退場ということになりかねません。

ケース2
その逆のロバストネスが有り過ぎの世界では、1つの遺伝子がたとえ活性を失うような変異となっても、その遺伝子変異を抱えつつその個体は子孫を残せます。

実際の生物はその中間にいるのでしょうが、生物個体としてはケース2であって欲しいと思う反面、そのような場合、ジャンクがどんどんゲノム中に蓄積することとなり、働かず自分はぬくぬくと子孫を残すような「利己的遺伝子」が跋扈するような惨状になりかねません。

ドーキンス的に言えば、生物個体は表現型をもたらすような個々の遺伝子の集合体であり、遺伝子達はある場面では協調的に、ある場面では競合的に振舞いつつも、生物個体を支えて行かねばならないわけです。

遺伝子重複による進化というお話も、遺伝子重複で片方の遺伝子で十分なのであれば、普通に考えたらジャンクだらけになりかねません。

遺伝子は表現型という形でしか自然淘汰に引っかかる事なく(中立的変異も表現型をもつということであれば同義です)、そもそも表現型をもたないようなDNA配列が本当に存在するのかは謎ですが、それはさておき、そのような、無賃乗車(ただ乗り)遺伝子を排除するには、市民としては、ケース1のように厳しく審査することが大事です。

しかし、厳しい審査にパスさせないということは、自分もその場で退場を余儀なくされるということになることが、人間社会と遺伝子社会では異なります。子孫を沢山産んで淘汰に曝して適者に残ってもらうというr戦略をとる生物(酵母)では、このやり方をとることができそうです。自分も死ぬけど、厳しくお互いを監視。

一方、K戦略型生物(ヒト)ではこの方法をとるのは困難となり、斯くして生物個体中にはジャンク遺伝子がうじょうじょということになりそうな印象があります。

本当にそのようになっているのかどうかご存知の方がいらっしゃいましたら教えて下さい。

つまり、細胞、個体のロバストネスというとその生物個体にとってよいような印象を受けがちですが、それは諸刃の剣であり、遺伝子本位の生物観からしたらロバストネスが高いことは必ずしも善ならず、というのが私の印象ですが、みなさん、いかがでしょうか。

第十二回 酵母の全体主義的な行動ーアポトーシスを例に

丑丸@静大です。

挨拶代わりの肩ならし程度の話題で最初はご勘弁願います。

当研究室に出芽酵母の経時的寿命(定常期のまま長期培養、長期栄養源飢餓状態)を調べている学生さんがいるのですが、そこでは知られていることですが、アポトーシスで酵母が死んで行く様子が観察できておー、という感じになります。

その生物学的意義としては、メンバーが何割りか犠牲になることで口減らし、それ以上に、細胞内容物を残りの仲間に提供するというのが考えられていて、そこに酵母達の自己犠牲的の精神をみることができる訳です。

metacaspase YCA1欠損株では、定常期培養初期には細胞死は少ないが、その後どどっと増えるという論文があります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14970189

しかし、遺伝子を一にする単一クローンの集団であれば、細胞全員で生き抜こうと頑張り全滅になるより、1%でも生き残って次世代に遺伝子を残すという必然的な戦略と言えるでしょう。

ここでミソなのは、「単一クローン」であればという点です。
自然界では異なるクローンの酵母が入り乱れて生育している訳で、下手をすると他クローンのために死ぬことになりかねません。

しかし、そういうケースでもやむなしと自己犠牲的精神を発揮するのか、もしくは自分のクローンに他ローンが混在している場合には、それを感知して持久戦が続くのか興味があります。

他クローンを混ぜて培養すし増殖、サバイバルを比較するという論文を見たことがあるのですが、例えばS288C由来の何か単一遺伝子のノックアウト株同士の比較で上述の問題に答えたことになるのかも疑問です。

どなたか、この問題を一緒に考えていただければうれしいです。

第十一回 番外編 酵母のノックアウトコレクションのエラー

谷内江@トロントです

ちゃんと読んでからもう一度リポートしますが、身の毛もよだつ論文がKupiecのラボから発表されています。酵母のノックアウトコレクションの7-15%が間違っているというものです。

ノックアウトを作成したときにとなりのプロモーターを削ってしまったということらしいです。なんとなくそんな感じだろうなと思っていましたが、予想外の多さではないでしょうか?

Finding mistakes in yeast gene libraries
http://www.natureasia.com/en/research/index/highlight/id/1649/

Systematic identification of gene annotation errors in the widely used yeast mutation collections
Taly Ben-Shitrit, Nir Yosef, Keren Shemesh, Roded Sharan, Eytan Ruppin & Martin Kupiec
Published online: 05 February 2012 | doi:10.1038/nmeth.1890
http://www.nature.com/nmeth/journal/vaop/ncurrent/full/nmeth.1890.html

第十回 酵母と進化研究

守屋@岡山大学です。

あけましておめでとうございます、というにはもうちょっと遅いですね。今年もよろしくお願いします。

今回は「進化研究」について書いてみたいと思います。私個人の歴史的見解から申し上げますと、私はこれまで随分と進化研究を毛嫌いしてきました。留学先の私のボス(Mark Johnston)も、進化の研究は「本質的にダーウィニズムで完結している」といってました。更に大きな問題は、「進化を本質的に実験的に再現する事は出来ない」というフラストレーションです。

「試験管内で進化を再現した!!」などといいますが、変異と選択で生物を何らかの方向に変化させる事が出来たというものが大半であり、それは確かに「進化」ではあるのかもしれませんが、生命が誕生してから(どうやって誕生したかも問題ですが)、それがどのような過程をへて今の状態になったのかという事はもちろん再現できません(思いを巡らす事は出来ますが)。

ですが最近この考えが変わってきました。単に私が無知だったというだけの事かもしれませんが、酵母の国際学会に出ていても、進化研究に対する酵母研究者の姿勢が変わってきたのではないかと感じるのです。

最近、Genetics誌に「YeastBook」として、酵母研究のレビューの連載が始まりました。その1回目「Yeast: An Experimental Organism for 21st Century Biology」において、Botstein氏とFink氏が、進化研究にも言及されています(短くではありますが)。

進化研究に再び注目が集まりはじめた理由の1つとしては、この論文にも書かれているように、「Whole genome sequencingやマイクロアレイ技術によって、ゲノムに生じている変化を詳細にとらえられるようになった事」、があげられるでしょう。しかし、私はこれ以外に研究者を進化研究に引き寄せている理由があると思います。

それが、「システムバイオロジー」です。

システムバイオロジーによって生命をシステムレベルで理解しようとした時に、最も重要な視点の1つは、「生命システム設計の原理」を知る事です。特定の生命システムが「何に最適化するように作られているか」、を知らないと1つ1つの要素の存在意義が説明できません。

システムバイオロジーの中心的な研究テーマである「ロバストネス」の発揮の原理を考えるとなおさらです。このシステムは、どのような摂動に対してロバストに出来ているのか?その為にどのような最適化を行なっているのか?またその事によって生じるであろうデメリット(トレードオフ)はどのように回避されているのか?van Oudenaarden氏の酵母のガラクトース感知系の一連の研究などはこの典型的な例だとおもいます。

この時、生命システムは当然ながら長年の進化の歴史によって紡ぎ上げられたものですから、進化の事を考えない訳にはいきません。つまり、システムバイオロジーを突き詰めると進化に進まざるを得ない運命があるともいっていいでしょう。“Nothing in Biology Makes Sense Except in the Light of Evolution”という言葉がある通り、生物学というのは進化の視点がなければ正しく理解できないのですが、システムバイオロジーではこの傾向がより顕著なのではないかと思うのです。

酵母を用いて進化が議論されている研究、最近の例でいえば、Andrew Murray氏の多細胞化の起源についての研究があります。

ちなみに、「進化研究は、生物学の中でも基礎中の基礎なので研究費がつきにくい」という考え方があるように思います。ただ現在の傾向として、「進化を知りそれをコントロールする」ことにより生命を操作したり、疾患を治療したりするという視点が生まれつつあるように思います。これもシステムバイオロジーの発展と不可分に思うのです。

余談ですが、私は、酵母、その中で特に出芽酵母を進化研究に向かわせたのには、もう1つの理由があると思います。それは、Whole Genome Duplication(WGD:全ゲノム重複)です。これについては、また稿を分けて書いてみたいと思います。

というわけで、今回は(私の場合はいつもかもしれませんが)、エッセーというか思いつきを書きなぐってみました。皆さんのご意見、反論お待ちしています。

第九回 HO遺伝子

谷内江@トロントです。ラボメートがこんなメールをくれました。

I hear HO is Santa’s favorite yeast gene.

Happy Holidays!

第八回 プラズモダクション

トロント大学の谷内江です。

今日のトロントは氷点下5度でした。年が明けたら氷点下20度まで下がります。

守屋さんが話題提供して下さった「第三回 酵母の形質転換効率」の議論の中で、酵母の形質転換に関してその効率や、細胞質に取込まれたDNAが核内へどのように移行するのか、プラスミドの導入が難しい株などについて話題になっていました。

これらに関連して今回はプラズモダクションによる形質転換について書いてみたいと思います。

酵母の形質転換は一般的にリチウムアセテイト法、スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法が用いられますが、これらの方法はいずれも酵母のコンピテント細胞の作成が必要で、手間の割に高い効率が得られません。スフェロプラスト法で数%程度でしょうか。

ライブラリースケールの形質転換でよく用いられるのはリチウムアセテイト法ですが、一般的に96ウェルのプレートを用いるなど反応のスケールが小さくなります。私が簡便でライブラリースケールの形質転換によいと思うのはZymoresearch社のEZ transformation kit(リチウムアセテイト法)[1] ですが、株によっては上手くプラスミドの導入ができず形質転換効率は常に問題になります。

システマティックなスクリーニング技術の発展とともに、ある特定のプラスミドをいろんな遺伝的バックグラウンドをもった株群にライブラリースケールで導入したいという要求は増えてきました。守屋さんが最近発表されたgTOWの仕事(2D gTOW)[2] にもそういった要求がありそうです。

そこで便利なのがコロンビア大学のRodney Rothsteinらが2002年にMethods in Enzymologyに書いたプラズモダクション(plasmoduction = plasmid + induction)です [3]。

プラズモダクションは交配と紡錘体極体(spindle pole body)の複製に関わるKAR1という遺伝子のアレルkar1∆15を利用します(KAR1のbiologyは吉田さんが詳しいでしょうか)。

kar1∆15の一倍体株は交配によって二倍体を形成することができますが、核を融合させることができません。つまり交配によってできた二倍体には一倍体由来の二つの核が存在することになります。

[条件]と[手法]はシンプルです。

[条件]

形質転換のターゲットとなる「レシピエント」の株はcycloheximideやcanavanineに非感受性のアレル(can1^Rcyh2^R)をもつ必要があり、もちろんプラスミド導入のためのマーカー遺伝子が利用できる遺伝型である必要があります。

[手法]

1) 「ドナー」としてkar1∆15であり、cycloheximideやcanavanineに感受性を示す(CAN1^SCYH^S)株を準備します。

2) 「ドナー」株に目的のプラスミドを形質転換します。

3) 「ドナー」と「レシピエント」を交配させます。二倍体では細胞質は混ざりますが、一倍体由来の二つの核は融合しません。

4) ここでプラスミド上にあるマーカーとcycloheximideやcanavanineで細胞を選択します。

このようにして細胞質を経由して移ってきたプラスミドを選択しながら「ドナー」由来の核自体の脱落を誘い、「レシピエント」由来の核「だけ」とプラスミドをもった株が選択できます。

酵母の高い交配効率によって高い形質転換効率を得ることができます。

kar1∆15アレルを利用することで「ドナー」と「レシピエント」の染色体がぐちゃぐちゃに混ざることもありません。

一旦「ドナー」株を作ってしまえばどんどん色んな株にプラスミドを導入できます。対象株群のコンピテント細胞を一つ一つ作る手間も必要ありません。YPDを用いて1:1で「ドナー」と「レシピエント」を96ウェルプレート内で混ぜて、プレートを遠心し、数時間インキュベートして選択にかけるだけという流れになるでしょうか。

コンピテント細胞を作る手法で形質転換が上手くいかない場合によいかもしれません。ラボに一株、プラズモダクション「ドナー」株があると便利そうです。

懸念されるべきは「レシピエント」側に交配関連遺伝子の欠損があった場合は上手くいかないかもしれないという点です。

私が疑問に思った点は、「ドナー」の核から「レシピエント」の核にそんなに簡単にプラスミドが移行するのかという点です。小さな(?)プラスミドは高い確率で核から出たり入ったりしているのでしょうか?

また、核が融合しない性質は、ある特定の細胞由来の核を別の細胞の任意の細胞質形質と同時に選択するのに役立つかもしれません。

前回の「第七回 酵母はなぜ胞子を作るのか」での議論に戻りますが、古い細胞のprotein fociを蛍光マーカーとプローサイトメトリーで選択しながら若い細胞の核とアッセイすることができるでしょうか?

 

[1] http://www.zymoresearch.com/product/frozen-ez-yeast-transformation-ii-kit-t2001

[2] Moriya H, Chino A, Kapuy O, Csikász-Nagy A, Novák B (2011) Overexpression limits of fission yeast cell-cycle regulators in vivo and in silico. Mol Syst Biol 7, 556

[3] Georgieva B, Rothstein R (2002) kar-mediated plasmid transfer between yeast strains, an alternative to traditional transformation methods. Methods in Enzymology 350, 278-289

第七回 酵母はなぜ胞子を作るのか

はじめまして、スタンフォード大学でポストドクトラルスカラーとして働いています、大西雅之と申します。現在はJohn R. Pringleの研究室で、出芽酵母の細胞質分裂に関する研究を行っております。今回コロキアムの話題提供者としてお声をかけていただき、他の提供者の方々と名前を並べていただくことに恐縮していますが、精一杯つとめたいと思っております。

個人的には大規模解析やシステムズバイオロジーにも興味を持っており、いくらか手を出している部分もあるのですが、これらの分野についてはエキスパートがいらっしゃるので、私はなるべくちょっと変わった話題を提供して行ければと思っています。

今回は「酵母はなぜ胞子を作るのか」という点について、面白い視点を提供した論文をご紹介します。

ご存知の通り、二倍体酵母細胞(今回は出芽酵母についてのみ議論しますが、分裂酵母の胞子形成については[1]など)は栄養が枯渇した条件にさらされると増殖を停止し、減数分裂と胞子形成を行います。作られた4つの一倍体胞子は、環境が改善すると発芽し、通常は近傍に存在する異性細胞と接合して二倍体に戻ります[2]。

研究室で容易に胞子形成を誘導でき、特定の遺伝型を持った一倍体胞子を単離し、目的に合致した株を作成できるという酵母の性質は、遺伝学を容易かつ迅速に行うことを可能にします。我々研究者にとっては大変ありがたい特性であり、酵母をスーパーモデル生物としての地位に押し上げた一番の要因の一つでもあります。さらに、胞子形成は配偶子形成(これは当然ですね)・新規オルガネラ形成・オルガネラソーティング・細胞分化・細胞内膜輸送・細胞質分裂など、様々な現象のモデルと考えることも出来ます。そのため、減数分裂と胞子形成の誘導・進行の分子メカニズム、つまり酵母が「どのように」胞子を作るかについてはこれまで多くの研究が精力的になされてきています[3]。

しかし、酵母は「なぜ」胞子を作るのでしょうか。

Stony Brook UniversityのAaron Neiman研究室およびMaurice Kernan研究室が、2008年に出した論文において、『ハエによる捕食を介して新たな環境に移住するため』ではないかという仮説を提唱しました[4]。詳細は論文(および、このエントリーを書いている間に発表されたレビュー[3])に譲りますが、
– 胞子とG1停止した栄養増殖細胞を比較すると、自然界に存在するほとんどのストレス(温度、浸透圧、凍結など)にはG1停止細胞で十分な耐性を示すが、高低pHや酵素による代謝には胞子のみが耐える
Drosophila属のハエは酵母を補食する
などの知見・観察を動機として、胞子とG1細胞でハエに食べられたのちに便の中で生存している割合を比較する実験を行い、胞子の方が約50倍高い生存率を示すことを見いだしました。
さらに、この被食耐性には、胞子特有の細胞壁であるジチロシンおよびキトサン層が重要とわかりました。酵母の分散にハエが貢献していることは古くから知られていましたが[5]、今回の例は捕食を介していることをきちんとしたアッセイで示し、減数分裂を行って胞子を作る意義に新たな提案をしていることが新しいと言えます。

今回の論文では実験動物としてDrosophilaが使用されていますが、他の昆虫や動物がかかわっている可能性も十分に考えられます。ハチや鳥などはありえそうな例ですし、キノコを食べるカタツムリやナメクジなどもあるかもしれません。我々が胞子嚢を分解するのに使うグルスラーゼはカタツムリ由来です。

植物・菌類(きのこ・かび)・珊瑚などの多くのimmobileな生物において、有性生殖期(花粉・胞子・遊走子・幼生)は生活環におけるmobile phaseとなっています。新しい環境に適応するために遺伝的多様性を増やすという戦略と考えられます。基本的にimmobileでありながら、胞子も移動能を持たない(カビと比べると飛散能がほとんどない)酵母は、生活環に明らかなmobile phaseが存在しない、ちょっと変わった生き物と言えます。ハエ(または他の動物)による運搬という戦略は、酵母に分散能を与えるだけでなく、ただ飛散するよりも高い確率で生存可能な環境(=ホストの好む食物)に移住できる可能性が高いという点で、非常に優れているのではないでしょうか。

さらに出芽酵母は、通常は高い確率で同じ胞子嚢由来の胞子と接合してしまうinbreeding指向を持っていますが、Drosophilaによる胞子嚢およびinter-spore bridgesの分解によって、outbreeding指向を高められることが報告されています[6]。一匹の昆虫が、花から花へと蜜を求めて飛び回りながら胞子を集め、その後一カ所にまとめてフンをすることで、outbreedingの確率があがることになります。

このように色々とスペキュレーションが膨らむ、非常に説得力のある「昆虫による分散のための胞子形成」仮説ですが、では自然界では胞子形成はどのような環境で起こるのでしょうか。上では胞子形成条件は窒素飢餓としましたが、より正確には「窒素源飢餓+non-fermentable carbon sourceの存在」となっています。non-fermentable carbonとしては、最も有効なのは酢酸塩(アセテート)であることがわかっています[7]。自然界でこのような条件が揃うのはどのような場合でしょうか。恥ずかしながら、私はうまい例が思いつかなかったので、Aaron Neiman博士に直接質問してみました。公式な答えとしては、「出芽酵母の生態について、わかっていることが少なすぎるため、はっきりとした答えは出せない」ということでしたが、あくまで可能性、スペキュレーションであると前置きして、一つの例を挙げてくださいました。酵母と言えばワイン(日本人なら日本酒ですが)ですが、その原料葡萄の表面に酵母とともに多く存在するのが酢酸菌、特にアセトバクターです。アセトバクターは、エタノールを代謝して、アセテートに変換します。ワインにアセトバクターがコンタミネーションすると、ワインビネガーになります。酵母が葡萄の表面である程度生育したあと、アセトバクターが取って代わって優占種になったような状況が、元々少ない窒素減が枯渇しアセテートが蓄積した、胞子形成条件にあたるのではないか、とのことでした。アセトバクターの代謝によって酸っぱくなった(腐った)葡萄は、ハエの大好物でもあるそうです。
繰り返しになりますが、これはあくまで一つの可能性に過ぎません。出芽酵母は様々な場所から単離されています。他の可能性について、ぜひコメントをお願いします。

ハエやハチなど、糖類を主食とする昆虫は、体内外に多くの酢酸菌を保持していることが知られています[8]。体内の酢酸菌は、主食の糖の代謝を行うことで、ある意味宿主の食性を定めているということも出来ます。これは私の妄想ですが、酵母・酢酸菌・ハエの三者間に一種の共生関係が見えるような気がします。共生(symbiosis)の定義は人によってかなり違うので、共進化(co-evolution)と言っておいた方が安全かもしれませんが。いずれにせよ、今回ご紹介したような論文は、我々が何千年も工業利用し、何十年も研究に使ってきた出芽酵母という生き物ですら、その生態や進化について「わからない」ことが多いということを示す良い例ではないでしょうか。

今回ご紹介した話題は出芽酵母でしたが、論文中では分裂酵母の胞子もハエによる捕食にある程度耐えることが示されています。他の酵母類でどうなるのか、興味深いところです。数百個の胞子を作る出芽酵母の一種Kluyveromyces polysporusなど、もしかしたら個体数の割に地理的分布が進んでいたりしませんでしょうか。

次回は、胞子形成シリーズ2として、『寿命のリセット(rejuvenation)は胞子形成の動機たり得るのか』というトピックについて議論・検証したいと思っています。(本来は一つのエントリーにするつもりでしたが、長くなってしまいました。)

1. Shimoda, C., Forespore membrane assembly in yeast: coordinating SPBs and membrane trafficking. J Cell Sci, 2004. 117(Pt 3): p. 389-96.
2. Neiman, A.M., Prospore membrane formation defines a developmentally regulated branch of the secretory pathway in yeast. J Cell Biol, 1998. 140(1): p. 29-37.
3. Neiman, A.M., Sporulation in the Budding Yeast Saccharomyces cerevisiae. Genetics, 2011. 189(3): p. 737-65.
4. Coluccio, A.E., et al., The yeast spore wall enables spores to survive passage through the digestive tract of Drosophila. PLoS One, 2008. 3(8): p. e2873.
5. Gilbert, D., Dispersal of Yeasts and Bacteria by Drosophila in a Temperate Forest. Oecologia, 1980. 46(1): p. 135-137.
6. Reuter, M., G. Bell, and D. Greig, Increased outbreeding in yeast in response to dispersal by an insect vector. Curr Biol, 2007. 17(3): p. R81-3.
7. Croes, A., Induction of Meiosis in Yeast. Planta, 1967. 76: p. 209-226.
8. Crotti, E., et al., Acetic acid bacteria, newly emerging symbionts of insects. Appl Environ Microbiol, 2010. 76(21): p. 6963-70.

第六回 網羅性の陰に精度を犠牲にする(バーコードシーケンス)

トロント大の谷内江です。

先週会議で行ったニューヨークは雪が降っていましたが、トロントも夏時間が終わり寒くなってきました。

2002年(今は私の二つ上の階にラボを構える)Guri Gieaverらがまだスタンフォードにいる時に、出芽酵母の一遺伝子欠損株コレクション [1,2] を作りました。すべての欠損株は対応する遺伝子座にマーカー遺伝子を挟む形で二つのDNAバーコード(UPTAGとDNTAG)を持つように作られています。それぞれのバーコードは異なる20bpの配列をもち、共通のPCRプライマーで増幅可能となっています。他にもバーコード化されたORFプラスミドコレクションMoBY-ORFコレクションなどがあります [3]。

細胞のバーコード化はマイクロアレイや最近は次世代シーケンサーの利用よってハイスループットな酵母のスクリーニングを可能にしました。簡単な流れはこうです:
(1) バーコード化された酵母コレクションを全部混ぜる
(2) 混ぜたプールを特定の条件下で生育する
(3) プールに対してバーコード領域を共通のPCRプライマーで増幅させる
(4) マイクロアレイまたは次世代シーケンサーによってそれぞれのバーコードの量を欠損株それぞれの菌体数として測る

これの対極として考えられるのは、(おそらく守屋さんもお持ちでしょうが)高度に並列化されてそれぞれの株のODを一つずつ測定するアッセイ系の利用です。すべての株について成長曲線を得る事ができますから特定の環境下において正確に株の適応度を測定することができます。

バーコード化コレクション+プールアッセイには注視すべき二つ部分があります。

一つ目は配列に依存するPCRの増幅効率です。高い配列依存性の知られるマイクロアレイはもとより、次世代シーケンサーを利用する場合でも超競争的環境下でのPCRによるバーコード増幅(大量の異なるテンプレートバーコードDNAの増幅)過程を経ます。同グループはUPTAGとDNTAGのシーケンスリード数に相関があることを示しています [4]。これはPCR(およびシーケンシング)がテンプレートDNAの分子数(ゲノムにエンコードされているのでつまりは細胞数)を反映しない限り起こりえないことですから、ある程度の精度では細胞数を相対定量できることになります。

二つ目は、菌体自身もまた超競争的環境下にさらされるという点です。適応度の低い株は単離しておけば成長しますが、適応度の高い株との競争的環境下におくと適応度の高い株に駆逐されることがあります。プールアッセイでは適応度の低い株の駆逐がおこりますから、多様な条件下における異なる超競争的アッセイがどれだけ私達に必要な情報を与えてくれるのか実験をデザインする際に考えなくてはなりません。

言うまでもなく、バーコード化コレクションのプールアッセイはスループットの点で格段に優れていますし、ある一種の革命を起こしました。しかしながら、現段階では確実に網羅性の陰に精度を犠牲にしています。

網羅性を保ったまま、より精度の高いスクリーニングのデザインはないでしょうか?

競争的PCRによるバーコード増幅過程にはいくつか改善案がありそうです。ひとつの簡単な手法は、すべてのバーコードを例えば[G/C][A/T]のリピートで構築してDNAの融解温度を似たようなものに保つことです。こうすることによって、すべてのバーコードのPCR効率を同等のものにすることができる気がします。もうひとつは、最近マウスの造血幹細胞の分化をレンチウィルスを用いたDNAバーコード化でトラックした研究 [5] に見られるように、ゲノムやプラスミドにバーコードをエンコードする際にイルミナのシーケンスアダプターで挟んだ配列ごとエンコードしてしまうことが考えられるかもしれません。

バーコードデザイン例:
[制限酵素サイト][イルミナアダプターPE1][バーコード][イルミナアダプターPE2][制限酵素サイト]

造血幹細胞の例ではPCRによる増幅が使われていますが、シーケンスアダプターの外側に制限酵素サイトもエンコードし、プールアッセイ後にDNAを精製、制限酵素サイトによりシーケンスアダプターで挟まれたバーコード領域を切り出し、直接イルミナのフローセルに流し込みます。Bridge PCRによってフローセル上で形成されるシーケンシングクラスターは、(PCR効率に依存するクラスターの大きさに関わらず)形成さえされてしまえば1分子に由来するものとして1リードの情報を与えてくれます [6]。したがって、このデザインから得られるリード数は直接プール内に存在したバーコードの多様性を反映することになるのではないでしょうか?

細胞の競争的環境下におけるアッセイも、「競争」を物理的な壁を作ることによって避けることができそうです。超密なマイクロウェルを使用する方法です。たとえば均質な1,000,000,000個のウェルをもった素材を想像して下さい(存在します)。バーコード化されたコレクションをプール化した後に、十分に培地で希釈し、1,000,000個程度の細胞をこの素材に流し込むとどうなるでしょうか?ほとんどのウェルは空のままで、いくつかのウェルにはそれぞれ一つだけ細胞が入り込み、ごく稀(無視できるほどの数)に一つのウェルあたり二つ以上の細胞が入ります(この分布はポワソン分布に従います)。この状態で培養した後に細胞を回収し、バーコード同定を行った場合、アッセイ中の細胞間の競争という部分が回避できそうです。

「網羅性の陰に精度を犠牲にする」ことについての議論はよく聞かれますが、新しいアイディアの創出によってその壁を越えていくことこそが重要だと思います。

[1] Giaever G et al. (2002) Functional profiling of the Saccharomyces cerevisiae genome. Nature 418, 387-391
[2] http://www-sequence.stanford.edu/group/yeast_deletion_project/
[3] Ho CH et al. (2009) A molecular barcoded yeast ORF library enables mode-of-action analysis of bioactive compounds. Nat Biotech 27, 369-377
[4] Smith A et al. (2009) Quantitative phenotyping via deep barcode sequencing. Genome Res 19, 1836-1842
[5] Lu R et al. (2011) Tracking single hematopoietic stem cells in vivo using high-throughput sequencing in conjunction with viral genetic barcoding. Nat Biotech 29, 928–933
[6] http://www.illumina.com/documents/products/techspotlights/techspotlight_sequencing.pdf