カテゴリー別アーカイブ: 遺伝子工学

第十八回 CerevisiaeのKOコレクションに見られるAneuploidy

守屋です。

大規模解析に関する短い関連話題ですが、エントリーを独立させました。

先日のYeast2012で、「cerevisiaeのKOコレクション(ハプロイド破壊株コレクション?)の多くのものがAneuploidになっている」という発言がちらほら出ていました。はじめAmonの発表で述べられていたらしい事を、大西さんに確認されて、私もぼーっとしていて聞き逃していたようなのですが、金曜日にも同様な話題が出ていましたね(大西さん、聞いてらっしゃいました?)。

その時の質疑では、「KOコレクションのそれぞれの株全部の塩基配列決定を誰かやらないのか?」「私たちやりはじめている。」という流れだったように思います。

これもまた大規模解析の難しさを物語っていますね。

第十五回 クロマチン代謝のシステマチックスクリーニング

谷内江@トロント大です。

現在守屋さん、吉田さん、大西さんらとYeast Meeting 2012@プリンストンに滞在しています。5泊6日でプリンストン大学に缶詰で濃い日々を過ごしています。

酵母テクノロジー屋の観点から、昨日のFred van Leeuwenさんの発表 [1] が面白いスクリーニングだと思ったので紹介させて下さい。

正確に発表を覚えていない部分があるかもしれませんが、概要はこうです。
彼らはまずヒストンタンパク質をエンコードする遺伝子の上流(もしくは下流)に二種類の免疫沈降タグとloxPサイトと共に以下の具合に入れました。
たぶんこんな感じでした:

[ヒストンH3]-[loxP]-[免疫沈降タグA]-[ターミネーター]-[loxP]-[免疫沈降タグB]

ヒストンH3をエンコードする遺伝子をこのようにしておくと、普段は[免疫沈降タグA]でしかヒストンを落とすことができませんが、Cre-loxP反応後は[免疫沈降タグB]でしか落とせなくなります。

Cre-loxPの誘導がない状態では、細胞内の染色体はすべて[ヒストンH3]-[免疫沈降タグA]で形成されています。
しかし、ある時間に細胞に対してCre-loxPの誘導をかけると染色体のヒストンH3の代謝によって染色体が[ヒストンH3]-[免疫沈降タグB]で形成されはじめます。

したがってCre-loxP反応後ある時間後に[免疫沈降タグA]で落ちてくるヒストンH3の量と[免疫沈降タグB]で落ちてくるヒストンH3の量をみることでクロマチンの代謝具合をモニターすることができるというものです。

これだけでも面白いのですが、彼らはさらにこれをBar-Seq法と組み合わせました:

酵母の一遺伝子破壊株コレクションの株それぞれにバーコーダー法 [2] でDNAバーコードを入れ、このクロマチン代謝トリック株とそれぞれ掛け合わせ、SGA法 [3] でクロマチン代謝トリックを持ちかつ一遺伝子が破壊された株のコレクションを作成しました。

すべての株をプール化して、Cre-loxPを誘導し、ある時間後に[免疫沈降タグA]でのChIP-Seqと[免疫沈降タグB]でのChIP-Seqをやって、[ヒストンH3]-[免疫沈降タグA]と一緒に落ちてきたDNAバーコードの数と[ヒストンH3]-[免疫沈降タグB]と一緒に落ちてきたDNAバーコードの数を比較しました。

要はこれで一遺伝子破壊に対応したクロマチン代謝の速度が一斉に測れるというもくろみで、アイディアはとても賢いのですが、まだまだ壁もあるようでした。

一遺伝子破壊株につきUPTAG-KanMX4-DNTAGという二つのバーコードが入っているのですが、UPTAGの結果とDNTAGの結果は相関しているのかという私の質問には「ない。KanMX4のプロモーター領域(UPTAG周辺)とターミネーター領域(DNTAG)周辺ではヌクレオソームのコンポジションが違う。」というフニャフニャした答えが返ってきました。

昨夜は日本人酵母研究者で集まって酵母の未来を語り合いました。

私は明日の朝にバーコードを使った次世代のインタラクトームスクリーニングについて発表します。

[1] http://www.yeast-meet.org/2012/abstracts/fulltext/f12560021.htm
[2] http://www.nature.com/nmeth/journal/v5/n8/full/nmeth.1231.html
[3] http://www.utoronto.ca/boonelab/sga_technology/index.shtml

第八回 プラズモダクション

トロント大学の谷内江です。

今日のトロントは氷点下5度でした。年が明けたら氷点下20度まで下がります。

守屋さんが話題提供して下さった「第三回 酵母の形質転換効率」の議論の中で、酵母の形質転換に関してその効率や、細胞質に取込まれたDNAが核内へどのように移行するのか、プラスミドの導入が難しい株などについて話題になっていました。

これらに関連して今回はプラズモダクションによる形質転換について書いてみたいと思います。

酵母の形質転換は一般的にリチウムアセテイト法、スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法が用いられますが、これらの方法はいずれも酵母のコンピテント細胞の作成が必要で、手間の割に高い効率が得られません。スフェロプラスト法で数%程度でしょうか。

ライブラリースケールの形質転換でよく用いられるのはリチウムアセテイト法ですが、一般的に96ウェルのプレートを用いるなど反応のスケールが小さくなります。私が簡便でライブラリースケールの形質転換によいと思うのはZymoresearch社のEZ transformation kit(リチウムアセテイト法)[1] ですが、株によっては上手くプラスミドの導入ができず形質転換効率は常に問題になります。

システマティックなスクリーニング技術の発展とともに、ある特定のプラスミドをいろんな遺伝的バックグラウンドをもった株群にライブラリースケールで導入したいという要求は増えてきました。守屋さんが最近発表されたgTOWの仕事(2D gTOW)[2] にもそういった要求がありそうです。

そこで便利なのがコロンビア大学のRodney Rothsteinらが2002年にMethods in Enzymologyに書いたプラズモダクション(plasmoduction = plasmid + induction)です [3]。

プラズモダクションは交配と紡錘体極体(spindle pole body)の複製に関わるKAR1という遺伝子のアレルkar1∆15を利用します(KAR1のbiologyは吉田さんが詳しいでしょうか)。

kar1∆15の一倍体株は交配によって二倍体を形成することができますが、核を融合させることができません。つまり交配によってできた二倍体には一倍体由来の二つの核が存在することになります。

[条件]と[手法]はシンプルです。

[条件]

形質転換のターゲットとなる「レシピエント」の株はcycloheximideやcanavanineに非感受性のアレル(can1^Rcyh2^R)をもつ必要があり、もちろんプラスミド導入のためのマーカー遺伝子が利用できる遺伝型である必要があります。

[手法]

1) 「ドナー」としてkar1∆15であり、cycloheximideやcanavanineに感受性を示す(CAN1^SCYH^S)株を準備します。

2) 「ドナー」株に目的のプラスミドを形質転換します。

3) 「ドナー」と「レシピエント」を交配させます。二倍体では細胞質は混ざりますが、一倍体由来の二つの核は融合しません。

4) ここでプラスミド上にあるマーカーとcycloheximideやcanavanineで細胞を選択します。

このようにして細胞質を経由して移ってきたプラスミドを選択しながら「ドナー」由来の核自体の脱落を誘い、「レシピエント」由来の核「だけ」とプラスミドをもった株が選択できます。

酵母の高い交配効率によって高い形質転換効率を得ることができます。

kar1∆15アレルを利用することで「ドナー」と「レシピエント」の染色体がぐちゃぐちゃに混ざることもありません。

一旦「ドナー」株を作ってしまえばどんどん色んな株にプラスミドを導入できます。対象株群のコンピテント細胞を一つ一つ作る手間も必要ありません。YPDを用いて1:1で「ドナー」と「レシピエント」を96ウェルプレート内で混ぜて、プレートを遠心し、数時間インキュベートして選択にかけるだけという流れになるでしょうか。

コンピテント細胞を作る手法で形質転換が上手くいかない場合によいかもしれません。ラボに一株、プラズモダクション「ドナー」株があると便利そうです。

懸念されるべきは「レシピエント」側に交配関連遺伝子の欠損があった場合は上手くいかないかもしれないという点です。

私が疑問に思った点は、「ドナー」の核から「レシピエント」の核にそんなに簡単にプラスミドが移行するのかという点です。小さな(?)プラスミドは高い確率で核から出たり入ったりしているのでしょうか?

また、核が融合しない性質は、ある特定の細胞由来の核を別の細胞の任意の細胞質形質と同時に選択するのに役立つかもしれません。

前回の「第七回 酵母はなぜ胞子を作るのか」での議論に戻りますが、古い細胞のprotein fociを蛍光マーカーとプローサイトメトリーで選択しながら若い細胞の核とアッセイすることができるでしょうか?

 

[1] http://www.zymoresearch.com/product/frozen-ez-yeast-transformation-ii-kit-t2001

[2] Moriya H, Chino A, Kapuy O, Csikász-Nagy A, Novák B (2011) Overexpression limits of fission yeast cell-cycle regulators in vivo and in silico. Mol Syst Biol 7, 556

[3] Georgieva B, Rothstein R (2002) kar-mediated plasmid transfer between yeast strains, an alternative to traditional transformation methods. Methods in Enzymology 350, 278-289

第四回 高効率に複数遺伝子をゲノムに挿入する

投稿者:谷内江@トロント大学

相当雑な思いつきを投稿させて下さい。

夜中ラボからの帰り道、第一回の投稿「酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作」をもとに (1) リニアな二重鎖DNAの末端修復組換えの効率が高いことと (2) 沢山のDNA分子が一斉にuptakeされる形質転換の特性について考えてみました。

(1) のリニアな二重鎖DNAの末端修復組換え効率が相当高いのは、Gibsonらのin-yeast assembly [1,2] にみてとれます。またHO遺伝子 [3] やSceI制限酵素 [4] によってターゲットのDNAを一旦切断しておくとリニアなDNAカセットの形質転換効率が高いことからもわかります。なぜ酵母はこのような高い末端修復組換え効率を持っているのか考えてみて、一瞬、HO遺伝子によるmating typeのスイッチングが効率良く起こらなくてはいけないためかと思いましたが、これはとても視野が狭いものと思い直しました。

これはおそらく減数分裂期の組換えのためだと思います。Spo11は酵母を含めた真核生物では幅広く保存されていて、減数分裂初期特異的に発現し二重鎖DNAを切断し (DSB, double-strand break)、ここを起点に減数分裂期の組換えが起こります [5]。2008年にLars Steinmetzのグループが異なる二つの酵母株を掛け合わせて減数分裂させてマイクロアレイによってゲノム上に起こるcrossover型とnon-crossover型の組換え頻度(組換えホットスポット、コールドスポット)を解析しました [6]。この結果はその前年にMichael Lichtenらによって発表されたSpo11によるDSBのゲノム上の分布 [7] ときれいに一致しました。

(2) の形質転換時にuptakeされるDNA分子の数についてですが、これは一体どれくらいでしょうか?(ありえなさそうですが)一細胞あたり数百-数千分子となるととても面白いことが考えられると思うのです。

守屋さんがご存知かと思いますが、Spo11を一倍体で高発現させるとどうなるのでしょうか?一倍体でDSBが起こると組換えによる修復の余地がなくてsickにならないのでしょうか?

以下「形質転換時にuptakeされるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現がsicknessを示す」という前提で、以下のような思考実験をしてみました。

1. 組換えホットスポットを10個選びます
2. それぞれの組換えホットスポットを狙って挿入されるような10個のDNAカセット(セレクションマーカー遺伝子なし)を準備します
3. ターゲットゲノムを精製し、ソニケーションして断片化します
4. 3の断片化ゲノムプールから選んだ10個のホットスポット周辺のDNA断片をpull-downによって除きます
5. 2と4を混合して形質転換にかけ、Spo11を”理想的なタイミングで一時的にだけ”発現させ、その後通常の培地でインキュベートします

セレクションがなくても高い確率で10個のカセットが挿入された株が得られないでしょうか?

あくまで、「形質転換時に単一細胞あたり取込まれるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現はゲノムをずたずたにして修復の余地もない」という前提ですが、要はSpo11によってゲノムDNAを切断し、そこを狙った末端修復組換えを利用しようというものです。ただしSpo11は狙った部分以外も切断してしまうので4を同時に加えて狙った以外のSpo11切断を補修できるようにします。3の断片化ゲノムプールを加えると準備したDNAカセット以外の元々のゲノム由来のDNA断片で修復されてしまう可能性があるので、ターゲット領域に対応するDNAは除いておこうというものです。

ご意見頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[2] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[3] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[4] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576

[5] http://www.yeastgenome.org/cgi-bin/locus.fpl?locus=SPO11
[6] Mancera E et al. (2008) High-resolution mapping of meiotic crossovers and non-crossovers in yeast. Nature 454, 479-485
[7] Buhler C et al. (2007) Mapping meiotic single-strand DNA reveals a new landscape of DNA double-strand breaks in Saccharomyces cerevisiae. PLoS Biol 5, e324

第三回 酵母の形質転換効率

守屋@岡山大学です。

以前から気になっていた話題が出ましたので投稿します。

それは第一回の谷内江さんの投稿、

それは十分なコンピテンシー(能力)を獲得できる細胞の割合と単位コンピテント細胞あたりの取込めるDNAの量です。これらの技術では一旦細胞がコンピテンシーをもつとDNA分子はいくらでも取込まれることがわかりますから形質転換に重要なファイクターはいかに細胞に高いコンピテンシーをもたせるかということになると思います。

に関わる部分です。(1)コンピテンシーを獲得できる細胞の割合(2)一旦コンピテンシーを持つとDNA分子はいくらでも取り込まれる、この両者、酵母を日常的に使っていると忘れがちになる(あるいは無視している?)事実ではないでしょうか。

1に関して言えば、私も実は全く気にした事がなかったのですが、あるとき京都大学のiGEMのチームが、「形質転換された細胞を(選択をかけずに)顕微鏡下でさがす」ということを目論んでいて、はたと気づかされました。その時は「それは無理じゃないか」と思ったのですが・・・。

これ、yeast_research ML(参加されていない方は是非。Yahoo Groupsです)で、質問したところ東京大学の前田達哉さんから、以下のような返事をいただきました。

広く使われているGietzらの方法だと、一回の形質転換に10^8の細胞を使って、ここに5ugのプラスミドを入れるとtotalで4×10^6の形質転換体が得られたとありました。この条件で細胞全体の4%なので、さらに効率を上げることは可能だと思います。

Yeast. 1995 Apr 15;11(4):355-60.
Studies on the transformation of intact yeast cells by the
LiAc/SS-DNA/PEG procedure.
Gietz RD, Schiestl RH, Willems AR, Woods RA.

前田達哉(東大・分生研)

4%とは微妙な数字です。これをもう一桁あげる事が出来れば、栄養要求性を用いない、ほ乳類のような視覚的な形質転換体の取得が可能になりそうです。4%でもやろうと思えば出来るレベルですけど。今ふと思いましたが、一旦入ってしまえば安定に維持されるプラスミドを用いてGFPをマーカーに用いればもしかしたら可能なのかもしれません。

2に関してですが、

私は2ミクロンベクターのコピー数を数えているのですが、たいてい30コピー程度で安定しています。野生型の2ミクロンプラスミドは複製システムのせいで非常に安定にコピー数を維持できるのですが、ベクター化しているものではこの安定維持システムが一部しか残っておらず機能していないようです(守屋自身が調べてまとめたページです)。

それはともかく、なぜまず始めに30コピー程度まであがれるのか?「最初に入ったプラスミドが不均等分配を繰り返してコロニーを作る頃にはコピー数が高くなっているのだろう」と漠然と思っていましたが、矢内江さんが言うように最初っからドサッと入っているのかもしれません。これは1の実験と組み合わせると観察が可能ですね。

いずれにせよ、Synthetic Biologyで今までにないものを作ろうとすると、酵母研究者が忘れていた/無視してきた重要な事実が浮かび上がってくるようです。

第二回:ホルモンを利用した新しい遺伝子発現制御システム

投稿者:守屋@岡山大学

Fast-acting and nearly gratuitous induction of gene expression and protein depletion in Saccharomyces cerevisiae.
McIsaac RS, Silverman SJ, McClean MN, Gibney PA, Macinskas J, Hickman MJ, Petti A, Botstein D.
Mol Biol Cell. 2011 Sep 30.
PMID: 21965290

David Botsteinのグループが最近発表した論文です。酵母で遺伝子の発現をON/OFFするのに最もよく使われるのがGAL promoterで、その次がMET promoterでしょうか?これらは確かにON/OFFがはっきりして反応も早いという評判なのですが、「栄養条件をかえなければならない」という最大のデメリットがあります。

今回発表されたのは、エストロゲンレセプターの核ー細胞質移行の制御をエストロゲン(β-setradiol)で制御するというシステムです。転写因子の構造が、GAL4DB-Estrogen receptor-VP16ADである事からGEVと呼ばれています。ホルモンを加えてわずか5分で転写活性化が始まるという「迅速な」システム、また、このGEV-エストロゲンによって、GAL遺伝子群を含むわずかな遺伝子しか影響を受けないとのことです。

GEVの良いところは、GAL1プロモーターという今までに非常によく使われてきたリソースがそのまま使えるという事ですね。あ、Tronto大学のグループがやった、GAL1による全遺伝子の過剰発現実験(Sopko 2006)、これも栄養条件を変えずにやることができるようになります。誰かがやろうとするのかな。

それから、ケミカルによる誘導という意味では、Tet-ON/OFFのシステムがありますが、これとこのシステムの差異はどこらへんにあるのでしょうかね?

余談ですが、最近、大阪大学のグループが、KOコレクションとGAL-opコレクション(こちらはGelperin 2005のコレクションです)の増殖測定の再測定を行なっています(Yoshikawa 2011)。まだちゃんと読んでいませんが(ここでまた報告したいと思います)、これまで報告されているのとちょっと違っているようなんです。「増殖速度が落ちる」という単純な測定ですが、定量・大規模データの難しさを表していると思いました。

このホルモンによる遺伝子発現制御システム、これから広まっていくのでしょうか?

最後に、気になるこのホルモンのお値段ですが、Sigma-Aldrichで調べると250mgで5,200円。論文によると10nMで毒性もなくうまく使えるという事で計算してみると、10nMの溶液1Lあたり・・・5銭!!ガラクトース(2%として1Lあたり約100円)よりずっと安い!?

Sopko R, Huang D, Preston N, Chua G, Papp B, Kafadar K, Snyder M, Oliver SG, Cyert M, Hughes TR, Boone C, Andrews B.
Mapping pathways and phenotypes by systematic gene overexpression.
Mol Cell. 2006 Feb 3;21(3):319-30.
PMID: 16455487

Yoshikawa K, Tanaka T, Ida Y, Furusawa C, Hirasawa T, Shimizu H.
Comprehensive phenotypic analysis of single-gene deletion and overexpression strains of Saccharomyces cerevisiae.
Yeast. 2011 May;28(5):349-61. doi: 10.1002/yea.1843. Epub 2011 Feb 22.
PMID: 21341307

Gelperin DM, White MA, Wilkinson ML, Kon Y, Kung LA, Wise KJ, Lopez-Hoyo N, Jiang L, Piccirillo S, Yu H, Gerstein M, Dumont ME, Phizicky EM, Snyder M, Grayhack EJ.
Biochemical and genetic analysis of the yeast proteome with a movable ORF collection.
Genes Dev. 2005 Dec 1;19(23):2816-26.
PMID: 16322557

第一回:酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作

投稿者:谷内江@トロント大学

J Craig Venter Institute (JCVI) が出芽酵母内でのマイコプラズマゲノムの合成 [1]、合成ゲノムのマイコプラズマ細胞への移植 [2] を達成させてからしばらく経ちます。

このプロジェクトではJCVIのSynthetic BiologyチームのDan Gibsonらを中心に発展を遂げた二つの技術が用いられています(それぞれ同様の、または基盤となる技術が以前からありました)。

一つはGibson CBA (chew-back annealing) 法で知られる、互いに30bp程度のオーバーラップ領域をもった複数のリニアなDNA断片をin vitroで一気に連結させる技術です [3]。この技術は、Phusion polymerase、Phusion Taq ligase、T5 exonucleaseを一度にDNA断片と混ぜて反応させるという非常にシンプルでスマートなものです。私の経験では数百bp程度の短いインサートをクローニングするときに非常に優れているように思います。こちらはタカラ (Clontech) がIn-Fusionというキットとして非常に似たような技術を以前から販売していました [4]。In-Fusionはトリックは公開されていませんが、Gibson CBA法とプロトコルも酷似しているので私は同じ技術かもしれないと思っています。

もう一つは、互いに50-70bp程度のオーバーラップ領域をもった複数の非常に長いリニアなDNA断片を全て出芽酵母に一気に形質転換してin vivoの組換えを利用して連結させるin-yeast assembly法です [5]。こちらは守屋さんがお詳しいと思いますが、古くからGap Repair Cloning (GRC) 法として知られているものです [6]。Gibsonらの達成はスフェロプラスト法と組み合わせて数十断片を優に連結できるようにしたところでしょう(LiAc法などでも可)。

JCVIのチームは短いDNA断片を合成し、まずGibson CBA方でそれらを連結してある程度長めのDNA断片を作成し、in-yeast assemblyで長いDNA断片を連結することで完全なマイコプラズマのcircular genomeを合成しました。

いずれの方法も(とくにGibson CBA法)はあらゆる場面で私達のクローニングを面倒な制限酵素のデザインから解放しました。(私はごく限られた場面でした制限酵素を使わなくなりました。)

そして、目立って新しいことではありませんが、in-yeast assembly法やGRC法から私達は直ちに二つを知ることができます。形質転換に重要なファクター(ボトルネック)はおそらく二つあると想像できます。それは十分なコンピテンシー(能力)を獲得できる細胞の割合と単位コンピテント細胞あたりの取込めるDNAの量です。これらの技術では一旦細胞がコンピテンシーをもつとDNA分子はいくらでも取込まれることがわかりますから形質転換に重要なファイクターはいかに細胞に高いコンピテンシーをもたせるかということになると思います。二つ目は、数十のDNA断片を一斉に細胞内で連結できるということは、断片化されたDNA末端での末端修復組換えの効率が非常に高いという事実です。末端修復組換えの効率の高さはHO遺伝子に知られる通りですが、数十の末端修復組換えを一つの細胞で一斉に起こせることがわかります。

現在JCVIのチームのフォーカスは合成ゲノムに対して大量の遺伝子を挿入したり、破壊したりと自由自在に操作するような方向に移っているようです。これに関連して、二つの異なるグループが末端修復組換えの高さを利用した酵母での効率的な遺伝子組み換え手法を提示しています。

一つ目はロックフェラーのFred Crossらの仕事で、HO遺伝子の認識配列をターゲットDNA予め挿入しておき、HO遺伝子にターゲットDNAを切断させた上で種々のDNAカセットと効率よく組換えるというものです [7]。こちらはHO遺伝子のDNA切断/末端修復組換えの仕組みをそのまま使いますから非常に効率が高く、リポーター遺伝子を用いたスクリーニングが要らないほどです。欠点はHO遺伝子を発現させるので遺伝子改変された株でないと性がぐちゃぐちゃに置き換わる点です。

二つ目はJCVIのVladimir NoskovとRay-Yuan Chuangのグループが発表したTRECという手法です [8]。こちらではSceIという18-bpの認識サイトをもった制限酵素を発現させてin vivoでゲノムを制限酵素によって切ってやろうというものです。このグループはSceIサイト-GAL1p-SELI-URA3というカセットでゲノムのある領域を削ったあと、SceI遺伝子の発現を誘導し、カセットの挿入箇所のゲノムを切断、5-FOAによるURA3のカウンターセレクションで効率的にカセット全体をゲノムから消してしまうことが可能であることを示しました。この操作を繰返すことでゲノムをどんどん削れるという提案ですものです。ゲノムを切断するという点ではCrossらとアイディアは同じですが、HO遺伝子ではないので対象株非依存に適用できます。

今日、Jef Boekeらのグループが酵母のゲノムを丸ごと合成しようという野心的なプロジェクトを進めており、最近二つの染色体の半分について合成を終了したと報告がありました [9]。彼らのプロジェクトは後々を想定して様々なトリックを合成ゲノムに仕掛けています。一つはすべての遺伝子コード領域にloxPサイトを挿入しておくというものです。無数のCre-loxP組換えからダイナミックなゲノムリアレンジメントの観察などが可能になります。

さて、酵母の全ゲノムを合成する際にゲノムの様々な箇所にSceIサイトで挟んだURA3遺伝子 (SceI-URA3-SceI)をちりばめて、任意の領域にGALプロモーター-SCEIを入れておくというのはどうでしょうか?

例えば、ゲノムの異なる領域にSceI-URA3-SceIを20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母を作成します。それぞれのSceI-URA3-SceI領域はゲノムに由来する場所固有の配列を外側にもちます。それぞれのSceI-URA3-SceI領域の外側を狙って組換えられる異なったヒトの遺伝子を持ったDNAカセットを20種類準備し、それらを全部混ぜて一斉に形質転換します。ガラクトースを含んだ培地でSceIを誘導し、ゲノムの20領域全てを切断した後、5-FOAでURA3をカウンターセレクトする培地に移します。何が起こるでしょうか。

20箇所で高効率の末端修復組換えが起こり、異なる20のヒトの遺伝子が全て同時に一発の形質転換でゲノムに挿入されると考えました。

JCVIで開発されたTREC法は酵母細胞内でDNAを制限酵素処理しました。GRC法やその発展型のin-yeast assembly法は大量のDNA断片が同時に単一細胞に取込まれ、大量の末端修復組換えが同時に起こることを教えてくれます。一旦SceI-URA3-SceI領域を20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母をテンプレート株作成してしまえば、形質転換するDNAカセットのパターンを変えるだけで様々な組合わせの遺伝子を形質転換一発でゲノムに挿入、ヒトの様々なパスウェイの再構築を簡便に実現できないでしょうか。

これは突拍子もないアイディアの一つですが、酵母のまわりで巻き起こっている合成生物学の発展は私達の発想をどんどん刺激してきます。今回の話題から派生するアイディアはまた次回の話題にさせて頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2008) Complete chemical synthesis, assembly, and cloning of a Mycoplasma genitalium genome. Science 319, 1215-1220
[2] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[3] Gibson DG et al. (2009) Enzymatic assembly of DNA molecules up to several hundred kilobases. Nat Methods 6, 343-345
[4] http://catalog.takara-bio.co.jp/clontech/product/basic_info.asp?catcd=B1000588&subcatcd=B1000606&unitid=U100006645
[5] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[6] http://hismoriya.com/HMwiki/index.php?Gap-Repair%20cloningを使おう%21
[7] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[8] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576
[9] Dymond JS et al. (2011) Synthetic chromosome arms function in yeast and generate phenotypic diversity by design. Nature 477, 471-476