カテゴリー別アーカイブ: 合成生物学

第四回 高効率に複数遺伝子をゲノムに挿入する

投稿者:谷内江@トロント大学

相当雑な思いつきを投稿させて下さい。

夜中ラボからの帰り道、第一回の投稿「酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作」をもとに (1) リニアな二重鎖DNAの末端修復組換えの効率が高いことと (2) 沢山のDNA分子が一斉にuptakeされる形質転換の特性について考えてみました。

(1) のリニアな二重鎖DNAの末端修復組換え効率が相当高いのは、Gibsonらのin-yeast assembly [1,2] にみてとれます。またHO遺伝子 [3] やSceI制限酵素 [4] によってターゲットのDNAを一旦切断しておくとリニアなDNAカセットの形質転換効率が高いことからもわかります。なぜ酵母はこのような高い末端修復組換え効率を持っているのか考えてみて、一瞬、HO遺伝子によるmating typeのスイッチングが効率良く起こらなくてはいけないためかと思いましたが、これはとても視野が狭いものと思い直しました。

これはおそらく減数分裂期の組換えのためだと思います。Spo11は酵母を含めた真核生物では幅広く保存されていて、減数分裂初期特異的に発現し二重鎖DNAを切断し (DSB, double-strand break)、ここを起点に減数分裂期の組換えが起こります [5]。2008年にLars Steinmetzのグループが異なる二つの酵母株を掛け合わせて減数分裂させてマイクロアレイによってゲノム上に起こるcrossover型とnon-crossover型の組換え頻度(組換えホットスポット、コールドスポット)を解析しました [6]。この結果はその前年にMichael Lichtenらによって発表されたSpo11によるDSBのゲノム上の分布 [7] ときれいに一致しました。

(2) の形質転換時にuptakeされるDNA分子の数についてですが、これは一体どれくらいでしょうか?(ありえなさそうですが)一細胞あたり数百-数千分子となるととても面白いことが考えられると思うのです。

守屋さんがご存知かと思いますが、Spo11を一倍体で高発現させるとどうなるのでしょうか?一倍体でDSBが起こると組換えによる修復の余地がなくてsickにならないのでしょうか?

以下「形質転換時にuptakeされるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現がsicknessを示す」という前提で、以下のような思考実験をしてみました。

1. 組換えホットスポットを10個選びます
2. それぞれの組換えホットスポットを狙って挿入されるような10個のDNAカセット(セレクションマーカー遺伝子なし)を準備します
3. ターゲットゲノムを精製し、ソニケーションして断片化します
4. 3の断片化ゲノムプールから選んだ10個のホットスポット周辺のDNA断片をpull-downによって除きます
5. 2と4を混合して形質転換にかけ、Spo11を”理想的なタイミングで一時的にだけ”発現させ、その後通常の培地でインキュベートします

セレクションがなくても高い確率で10個のカセットが挿入された株が得られないでしょうか?

あくまで、「形質転換時に単一細胞あたり取込まれるDNA分子の数が非常に多い」「一倍体でのSpo11の高発現はゲノムをずたずたにして修復の余地もない」という前提ですが、要はSpo11によってゲノムDNAを切断し、そこを狙った末端修復組換えを利用しようというものです。ただしSpo11は狙った部分以外も切断してしまうので4を同時に加えて狙った以外のSpo11切断を補修できるようにします。3の断片化ゲノムプールを加えると準備したDNAカセット以外の元々のゲノム由来のDNA断片で修復されてしまう可能性があるので、ターゲット領域に対応するDNAは除いておこうというものです。

ご意見頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[2] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[3] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[4] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576

[5] http://www.yeastgenome.org/cgi-bin/locus.fpl?locus=SPO11
[6] Mancera E et al. (2008) High-resolution mapping of meiotic crossovers and non-crossovers in yeast. Nature 454, 479-485
[7] Buhler C et al. (2007) Mapping meiotic single-strand DNA reveals a new landscape of DNA double-strand breaks in Saccharomyces cerevisiae. PLoS Biol 5, e324

第一回:酵母ゲノムの合成と大規模遺伝子操作

投稿者:谷内江@トロント大学

J Craig Venter Institute (JCVI) が出芽酵母内でのマイコプラズマゲノムの合成 [1]、合成ゲノムのマイコプラズマ細胞への移植 [2] を達成させてからしばらく経ちます。

このプロジェクトではJCVIのSynthetic BiologyチームのDan Gibsonらを中心に発展を遂げた二つの技術が用いられています(それぞれ同様の、または基盤となる技術が以前からありました)。

一つはGibson CBA (chew-back annealing) 法で知られる、互いに30bp程度のオーバーラップ領域をもった複数のリニアなDNA断片をin vitroで一気に連結させる技術です [3]。この技術は、Phusion polymerase、Phusion Taq ligase、T5 exonucleaseを一度にDNA断片と混ぜて反応させるという非常にシンプルでスマートなものです。私の経験では数百bp程度の短いインサートをクローニングするときに非常に優れているように思います。こちらはタカラ (Clontech) がIn-Fusionというキットとして非常に似たような技術を以前から販売していました [4]。In-Fusionはトリックは公開されていませんが、Gibson CBA法とプロトコルも酷似しているので私は同じ技術かもしれないと思っています。

もう一つは、互いに50-70bp程度のオーバーラップ領域をもった複数の非常に長いリニアなDNA断片を全て出芽酵母に一気に形質転換してin vivoの組換えを利用して連結させるin-yeast assembly法です [5]。こちらは守屋さんがお詳しいと思いますが、古くからGap Repair Cloning (GRC) 法として知られているものです [6]。Gibsonらの達成はスフェロプラスト法と組み合わせて数十断片を優に連結できるようにしたところでしょう(LiAc法などでも可)。

JCVIのチームは短いDNA断片を合成し、まずGibson CBA方でそれらを連結してある程度長めのDNA断片を作成し、in-yeast assemblyで長いDNA断片を連結することで完全なマイコプラズマのcircular genomeを合成しました。

いずれの方法も(とくにGibson CBA法)はあらゆる場面で私達のクローニングを面倒な制限酵素のデザインから解放しました。(私はごく限られた場面でした制限酵素を使わなくなりました。)

そして、目立って新しいことではありませんが、in-yeast assembly法やGRC法から私達は直ちに二つを知ることができます。形質転換に重要なファクター(ボトルネック)はおそらく二つあると想像できます。それは十分なコンピテンシー(能力)を獲得できる細胞の割合と単位コンピテント細胞あたりの取込めるDNAの量です。これらの技術では一旦細胞がコンピテンシーをもつとDNA分子はいくらでも取込まれることがわかりますから形質転換に重要なファイクターはいかに細胞に高いコンピテンシーをもたせるかということになると思います。二つ目は、数十のDNA断片を一斉に細胞内で連結できるということは、断片化されたDNA末端での末端修復組換えの効率が非常に高いという事実です。末端修復組換えの効率の高さはHO遺伝子に知られる通りですが、数十の末端修復組換えを一つの細胞で一斉に起こせることがわかります。

現在JCVIのチームのフォーカスは合成ゲノムに対して大量の遺伝子を挿入したり、破壊したりと自由自在に操作するような方向に移っているようです。これに関連して、二つの異なるグループが末端修復組換えの高さを利用した酵母での効率的な遺伝子組み換え手法を提示しています。

一つ目はロックフェラーのFred Crossらの仕事で、HO遺伝子の認識配列をターゲットDNA予め挿入しておき、HO遺伝子にターゲットDNAを切断させた上で種々のDNAカセットと効率よく組換えるというものです [7]。こちらはHO遺伝子のDNA切断/末端修復組換えの仕組みをそのまま使いますから非常に効率が高く、リポーター遺伝子を用いたスクリーニングが要らないほどです。欠点はHO遺伝子を発現させるので遺伝子改変された株でないと性がぐちゃぐちゃに置き換わる点です。

二つ目はJCVIのVladimir NoskovとRay-Yuan Chuangのグループが発表したTRECという手法です [8]。こちらではSceIという18-bpの認識サイトをもった制限酵素を発現させてin vivoでゲノムを制限酵素によって切ってやろうというものです。このグループはSceIサイト-GAL1p-SELI-URA3というカセットでゲノムのある領域を削ったあと、SceI遺伝子の発現を誘導し、カセットの挿入箇所のゲノムを切断、5-FOAによるURA3のカウンターセレクションで効率的にカセット全体をゲノムから消してしまうことが可能であることを示しました。この操作を繰返すことでゲノムをどんどん削れるという提案ですものです。ゲノムを切断するという点ではCrossらとアイディアは同じですが、HO遺伝子ではないので対象株非依存に適用できます。

今日、Jef Boekeらのグループが酵母のゲノムを丸ごと合成しようという野心的なプロジェクトを進めており、最近二つの染色体の半分について合成を終了したと報告がありました [9]。彼らのプロジェクトは後々を想定して様々なトリックを合成ゲノムに仕掛けています。一つはすべての遺伝子コード領域にloxPサイトを挿入しておくというものです。無数のCre-loxP組換えからダイナミックなゲノムリアレンジメントの観察などが可能になります。

さて、酵母の全ゲノムを合成する際にゲノムの様々な箇所にSceIサイトで挟んだURA3遺伝子 (SceI-URA3-SceI)をちりばめて、任意の領域にGALプロモーター-SCEIを入れておくというのはどうでしょうか?

例えば、ゲノムの異なる領域にSceI-URA3-SceIを20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母を作成します。それぞれのSceI-URA3-SceI領域はゲノムに由来する場所固有の配列を外側にもちます。それぞれのSceI-URA3-SceI領域の外側を狙って組換えられる異なったヒトの遺伝子を持ったDNAカセットを20種類準備し、それらを全部混ぜて一斉に形質転換します。ガラクトースを含んだ培地でSceIを誘導し、ゲノムの20領域全てを切断した後、5-FOAでURA3をカウンターセレクトする培地に移します。何が起こるでしょうか。

20箇所で高効率の末端修復組換えが起こり、異なる20のヒトの遺伝子が全て同時に一発の形質転換でゲノムに挿入されると考えました。

JCVIで開発されたTREC法は酵母細胞内でDNAを制限酵素処理しました。GRC法やその発展型のin-yeast assembly法は大量のDNA断片が同時に単一細胞に取込まれ、大量の末端修復組換えが同時に起こることを教えてくれます。一旦SceI-URA3-SceI領域を20個ゲノムに挿入した合成出芽酵母をテンプレート株作成してしまえば、形質転換するDNAカセットのパターンを変えるだけで様々な組合わせの遺伝子を形質転換一発でゲノムに挿入、ヒトの様々なパスウェイの再構築を簡便に実現できないでしょうか。

これは突拍子もないアイディアの一つですが、酵母のまわりで巻き起こっている合成生物学の発展は私達の発想をどんどん刺激してきます。今回の話題から派生するアイディアはまた次回の話題にさせて頂ければと思います。

[1] Gibson DG et al. (2008) Complete chemical synthesis, assembly, and cloning of a Mycoplasma genitalium genome. Science 319, 1215-1220
[2] Gibson DG et al. (2010) Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. Science 329, 52-56
[3] Gibson DG et al. (2009) Enzymatic assembly of DNA molecules up to several hundred kilobases. Nat Methods 6, 343-345
[4] http://catalog.takara-bio.co.jp/clontech/product/basic_info.asp?catcd=B1000588&subcatcd=B1000606&unitid=U100006645
[5] Gibson DG. (2009) Synthesis of DNA fragments in yeast by one-step assembly of overlapping oligonucleotides. Nucleic Acids Res 37, 6984-6990
[6] http://hismoriya.com/HMwiki/index.php?Gap-Repair%20cloningを使おう%21
[7] Cross FR, Pecani K (2011) Efficient and rapid exact gene replacement without selection. Yeast 28, 167-179
[8] Noskov VN et al. (2010) Tandem repeat coupled with endonuclease cleavage (TREC): a seamless modification tool for genome engineering in yeast. Nucleic Acids Res 38, 2570-2576
[9] Dymond JS et al. (2011) Synthetic chromosome arms function in yeast and generate phenotypic diversity by design. Nature 477, 471-476