第21回 酵母遺伝学に一塩基対単位へのルネサンスは訪れているのか

スタンフォード大学大西です。

今回は個人的な体験談から始めさせていただきます。
このコロキアム第8回のエントリー『プラズモダクション』のディスカッションで、プラズモダクションとプラスミドを用いた遺伝子破壊を組み合わせる事で、Synthetic Genetic Array (SGA)およびその関連技術を改善する事が出来るのではないか、という提言をしました。(一般読者向け:SGAは、Yeast ORF-deletion collectionやORF-overexpression collectionなどを使い、大量の遺伝子相互作用を網羅的に解析する手法)

#以下、『引用』の形にした部分は、最終的に完成させなかった技術に関する議論で本筋に関係ありませんので、読み飛ばしてもらって結構です

トロント大の谷内江さんには以前少しお話ししましたが、このアイデアは、別図に示すように 画像検索等でヒットした際に誤解を生じる可能性があるので、実現していない技術の図を載せるのは控えました。その分わかりにくくなるかもしれませんが、ご了承ください。ご興味があれば、連絡いただければ図をお送りします

(1)酵母の全ORFについて、バーコード付き遺伝子破壊カセット(両端にI-SceI制限酵素認識配列付き)をGAL-I-SceIプラスミド (URA3) にクローニングし、これを「ドナー株」にトランスフォーメーションしたコレクションを作成する
(2)「ドナー株」からプラスミドを「レシピエント株」にプラズモダクションで移動させる
(3)プラスミド上のI-SceI遺伝子を発現させ、遺伝子破壊カセットをプラスミドから切り出す
(4)破壊カセット上のマーカーによる選択およびプラスミドの逆選択
という手法を用います。

酵母に詳しい方なら、 遺伝子破壊の効率など、いくつか技術的な困難を予想されると思いますが、もしこの技術が実現すればSGAに対して数多くのアドバンテージが得られます。

(a) 最終的に破壊された株は「レシピエント株」とisogenicになるため、接合・胞子形成を介するSGAよりも均質なポピュレーションが得られる。Chemostatを使用したポピュレーション解析等にも適している
(b)「ドナー株」と接合できるかぎり、どのような株でも「レシピエント株」として使用可能。
例:各種野生株 (incl. SK-1, Sigma, etc)、 多重破壊株、点変異株、 胞子形成不能株、 産業株、医療株など
実験例:すでに4重破壊株を持っている場合、致死になる5重破壊株をスクリーニングする、等
(c)「ドナー株」コレクションからはプラスミド(とミトコンドリア)以外の遺伝情報は伝達されないため、KOコレクションのaneuploidyのように、コレクションのクオリティーによる問題がおこりずらい
(d) なにより、実験操作が比較的容易(混ぜる、SceIを誘導する、セレクション)でロボットも必要ではないため、小規模な研究室でも独立して実験しやすい

このアイデアについて、スタンフォード内外の何名かの酵母研究者にプレゼンテーションしたところ、技術的困難はあるが不可能ではない、実現すれば意義は大きい、という評価だったため、サイドプロジェクトとしてpreliminary dataを集めはじめました。しかし、ある出来事をきっかけに、このアイデアはお蔵入りさせてしまいました。

昨年末、とある酵母研究者(DLさんとします)がスタンフォードを訪れた際、私の研究についてのディスカッションをさせてもらいました。ひとしきり話したあと、「こんなアイデアもあるんだけど」と上記のサイドプロジェクトについて伝えたところ、
「アイデア自体はキュートだ。クレバーだし、うまくいったら面白い」としながらも、
「本質的な疑問として、SGAが上手く動かないからといって、君がそれを直してやる価値はあるのか。シークエンシング技術がこれだけのスピードで進化しているんだから、これからは一塩基の時代だろう。5年も経てば、破壊コレクションなんて時代遅れになっているんじゃないか

私はこの言葉に衝撃を受け、しばらく悩んだ後、上記のサイドプロジェクトを凍結する事を決意しました。現在は、その分の時間を新たに始めた「一塩基プロジェクト」に振り分けています。

皆さんはDLさんの言葉について、どう思われますか?

過剰発現・局在・結合解析など[1-3]、必然的にORFを単位とする研究を除外すると、大規模遺伝学(ここではSGAの10-100倍以上の規模を想定しています)については、今後点変異への回帰が起こるのは間違いないように思います。
SGAと同じような事を、「yfg破壊株を変異処理、致死になる株を集めて*シークエンシング、その後 genome-wide association 解析」という方法で出来るようになるわけです。(*ここで酵母ならではの、URA3プラスミド+5FOAなどを用いて本来致死の株を生かしておく、という方法が役に立ちます) 
ポピュレーション解析の形で、変異処理直後と、数世代後を比べる事で、定量的に数十万の変異株を比較する事も簡単に出来ます。

その他にも、既存の実験株、産業株、医療株をsmall-nucleotide polymorphisms(SNPs)のソースとして利用する研究はすでに盛んですし[4, 5]、極端な話としては、12.5 Mbps全てに一つずつ置換を入れたコレクションを作ってしまう、もしくは、約10,000個ずつ置換を入れた1,250株のコレクションをつくる、というような考え方もあります。

クラシカルな変異株探索にしても、「高頻度に変異度導入、目的の表現型を持つ株を取得。(この段階では無関係の変異が多数あるため、) 一度バッククロスして目的の表現型を示す子孫を集めてゲノムシークエンシング」という方法が簡単に出来ます。
株の単離を目指さずに、変異株プールから表現型を示すサブプールをスクリーニング、サブプールのゲノムをまとめてシークエンシングする事で表現型と連鎖する変異遺伝子座を同定する、という事も可能です。

一方、小〜中規模のゲノムワイド解析については、ORF破壊株コレクションを用いたSGA系テクノロジー(上記改善版も含む)は、これからも有用であろうと思います。定量的な「増殖速度」や「薬剤感受性」などは比較的に簡単に大規模解析が出来ますが、「胞子形成能」「オートファジー」「invasive growth」「細胞極性」など、大規模な定量解析が難しい形質について緻密に調べたい場合、約5,000という小規模のコレクションサイズはありがたいです。ただし、こちらについてもmicrosfluidics [6, 7]+ sorting + CalMorph[8, 9]のようなcomputational image analysisによってどんどん大規模化が進むにつれて、一塩基単位での大規模遺伝学の可能性が拓けてきそうです。

酵母遺伝学は、点変異株の単離とcharacterizationから始まり、その後遺伝子配列が同定される時代が来ました。ゲノムシークエンシングの完了と、PCRをもちいた相同組み替えによる遺伝子破壊の容易化によってORF破壊株を用いた研究が広まり、破壊株コレクション全盛の時代になっています。(少なくとも私は、いまだに「全盛の時代」だと認識していたため、上記のような方法でSGAを改善することに価値があると考えていました。)ゲノム配列を決定する技術的ハードルが下がって行くにつれ、点変異時代へのルネサンスが起こるのでしょうか。

酵母の成功に触発されて、遺伝子単位でのノックアウト・ノックダウン・挿入変異のコレクションは他の生物でもどんどん取り入れられています(大腸菌・マウス・ヒト培養細胞・線虫・クラミドモナス、など)。時代の最先端を走り続ける宿命にある酵母として、どのような方向に遺伝学が進んでいくべきか、議論が出来ればと思います。

1. Douglas, A.C., et al., Functional analysis with a barcoder yeast gene overexpression system. G3, 2012. 2(10): p. 1279-89.
2. Huh, W.K., et al., Global analysis of protein localization in budding yeast. Nature, 2003. 425(6959): p. 686-91.
3. Makanae, K., et al., Identification of dosage-sensitive genes in Saccharomyces cerevisiae using the genetic tug-of-war method. Genome research, 2013. 23(2): p. 300-11.
4. Wenger, J.W., K. Schwartz, and G. Sherlock, Bulk segregant analysis by high-throughput sequencing reveals a novel xylose utilization gene from Saccharomyces cerevisiae. PLoS genetics, 2010. 6(5): p. e1000942.
5. Zheng, W., et al., Genetic analysis of variation in transcription factor binding in yeast. Nature, 2010. 464(7292): p. 1187-91.
6. Ryley, J. and O.M. Pereira-Smith, Microfluidics device for single cell gene expression analysis in Saccharomyces cerevisiae. Yeast, 2006. 23(14-15): p. 1065-73.
7. http://www.cellasic.com/ONIX_yeast.html.
8. Ohya, Y., et al., High-dimensional and large-scale phenotyping of yeast mutants. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2005. 102(52): p. 19015-20.
9. http://scmd.gi.k.u-tokyo.ac.jp.

投稿日: 2013年4月30日 | カテゴリー: Uncategorized | パーマリンク 15件のコメント.

  1. 守屋@岡大です。

    私も直感的な感想としてDLさんを支持します。

    実際、大西さんが後半に書いてらっしゃる「株の単離を目指さずに、変異株プールから表現型を示すサブプールをスクリーニング、サブプールのゲノムをまとめてシークエンシングする事で表現型と連鎖する変異遺伝子座を同定する」方が、酵母研究としてはよっぽどクール(かつ今後の主流になる)な気がします。

    実際私たちの研究室では多コピーサプレッサーを大量にとっているのですが、これを一個ずつシーケンスするのではなくてまとめてシーケンサーで読んでしまいたいと思っています(コストの面でまだ実現できていないのですが)。一塩基シーケンシングとは違いますけど似たようなコンセプトですよね。

    点変異の面白いところは予想外のアリルがとれるところですよね。うまく行った研究例を見てみたいので大西さん是非トライしてください!!

  2. トロント大谷内江です。

    大西さんありがとうございます。久しぶりの酵母コロキアムですね。
    酵母は依然として遺伝子単位の議論を進めていくことに価値が見いだせるような気がします。

    何よりもはじめに、遺伝子単位の破壊って分かりやすいですよね。遺伝子を破壊したらその遺伝子に起因する機能がなくなりますから。

    変異解析はレイヤーが異なります、逆遺伝学をするなら変異が遺伝子にとってどのような効果を持つのか定量的に知る必要があります。遺伝学はdeleteriousなmutationをスクリーニングできますが、逆遺伝学をしたいとなると話が違います。また複数の変異の組み合わせの数は爆発的に多くなり、シーケンサーのread depthや以前酵母フォーラムの(メーリングリストで議論させて頂きましたように)1 trillion cellsといった一斉に扱える細胞数の限界を簡単に超えてしまいます。

    今SGAの人達は組み合わせで動いています。破壊株を作った後にどういうsuppressor mutationが生まれるか、コレクションを全部シーケンスでスクリーニングしようというような。これはfeasibleな方向性だと思います。

    私は大西さんのアイディア大好きですけどねえ。Delitto perfettoバージョンがあって、繰り返し何重破壊株でも作れるようにできると完璧だと思います(URAマーカーもうつかちゃってますけど)。http://en.wikipedia.org/wiki/Delitto_perfetto

    守屋さん、多コピーサプレッサーってDSGのsuppressor mutationですか?もしそうならgTOW DSG論文を読んだ時に、random mutagenesisと”pooled gTOW”とシーケンサーの組み合わせでかなりリーズナブルに解けると思うなと考えていたのですが、もうこういうこと考えていらっしゃいますかね?ご興味がありましたらまた電話かemailでお話しましょう ;)

    • 「酵母は依然として遺伝子単位の議論を進めていくことに価値が見いだせるような気がします。」これにも同意します。

      私が先のコメントで「直感的な感想」と書いたのは理由があって、結局そんな直感を凌駕してしまえばいいわけで、「予想しない結果」を見せつけてられて考え方を変えさせられるというのはサイエンスとしてよくあることだと思います。ここら辺は自分を信じて突き進むしかないですね。とはいえ「それいけるよ!」と強力に後押ししてくれる人がいるとやる気が出るのは確かなんですが。

      酵母で遺伝子単位のテクノロジーが今後もどこまで進んでいくのか、もう膨大なコレクションができてますから、まだ突き詰めるのかどうなのか帰路に立たされている気はしますね。これまで作られたリソースを使う分にはそうコストはかかりませんが、新たなコレクション、しかも精度の高いものとなるとそれなりにコストがかかる。これを手に入れられるか・・・すみません世知辛い話をしてしまいまして。

      谷内江さんの話、興味があります。多分ウチでやっているのは古典的なスクリーニングの域を超えてないのでちょっと内容を教えていただけませんか(まずはメールで)。

  3. トロント大谷内江です。

    私も破壊株に十分な活路があるというのは直感的な感想です :)

    コレクションに関しては、私たち日本人は持ち前の丁寧さと器用さで美しいものも新たに作っていこうという気持ちです。どんどん勢力的にやりましょう。

    守屋さん、メールします。

  4. 大西雅之

    スタンフォード大学・大西です。

    私自身はどちらかというと一つの生命現象に注目して、その道具として大規模解析を使う立場なので、守屋先生や谷内江さんの持っている「直感」がありません。それもあって、今回の話題を投稿する事で皆さんの「直感」を伺えて良かったです。

    >点変異の面白いところは予想外のアリルがとれるところですよね。うまく行った研究例を見てみたいので大西さん是非トライしてください!!(守屋先生)

    この「点変異の持つ可能性」を無視してしまうのはもったいないですよね。

    私は現在プロジェクトの一つとして、異なる2種類の研究室株の持つ~15,000 SNPsのうち、一つのゲノム上に乗っかった時だけにとある表現型を示す、複数アリルの組み合わせを捜す実験を行っています。引用文献[4]と似ていますが、polygenic phenotypeに注目している点が異なります。イメージとしては、健康な両親から胎生致死の子供が生まれるレアなイベントの、原因アリルの組み合わせを捜す、というのに似ていますでしょうか。見ている現象がQuantitative trait か Threshold traitかは、定義が難しい所ですが、いくつか面白いアリルが見つかっています。

    ただこのような、既存の株をgenetic variationのソースとして使う研究は、自然界で淘汰されなかったアリルしか取り扱わないという限界があります。だからこそrellevantだという考え方もありますが、昔からある点変異アリルのような、酵母ならではのpenetrantで、面白くて、かつ有用な物が見つかってくる可能性は低いです。古典的な変異剤を用いた実験と、新しいシークエンシング技術を組み合わせる方向で、今後出来る事を考えてみようと思っています。

    >多コピーサプレッサーのダイレクトシークエンシング(守屋先生)

    これ、面白そうですね。上手くgTOWと組み合わせる事で、「サプレッションに必要な最低コピー数」を全遺伝子についてプロットしたりできますでしょうか。

    >何よりもはじめに、遺伝子単位の破壊って分かりやすいですよね。遺伝子を破壊したらその遺伝子に起因する機能がなくなりますから。(谷内江さん)

    賛成です。わかりやすさは非常に大事だと思います。特に、システムズバイオロジーのようにマクロな目で生命システムを考える際に、点変異アリルがしばしば持つ「あやふやさ」を除外するのは意義があると思います。

    一方、遺伝子単位の破壊を最小分解単位とする事によって見逃される生命現象が多数ある事も指摘されなくてはいけないです。遺伝子Aの転写、翻訳、タンパク質分解レベルでの制御については、遺伝子アのORF破壊株を調べていても見えてきません。一方、点変異ライブラリーのようなものが実現すれば、例えば転写因子XやRNA結合タンパク質Yに制御を受ける遺伝子群と結合塩基配列を一気に見つける、というような網羅的解析が出来るようになりませんでしょうか。(例えば、XやYをgTOWで発現して、dosage-sensitive/resistant point mutantsを捜す、というような形で)

    >破壊株を作った後にどういうsuppressor mutationが生まれるか、コレクションを全部シーケンスでスクリーニングしようというような。(谷内江さん)

    おお、という事は、コレクションのaneuploidy問題の原因はやっぱりspontaneous suppressorだったのでしょうか。既存のリソースを生かすという意味で、コレクションに生じる問題をアドバンテージとして使う方向性はロジカルですね。さすがです。

  5. はじめまして、飯田@NIGです。
    時々”酵母コロキアム”を読ませて頂いています。

    ”酵母” ”ルネサンス”でたまたま行き着いたのですが、興味ある内容でしたので私事でコメントさせて頂きます。

    >”酵母遺伝学に一塩基対単位へのルネサンスは訪れているのか?”
    私のところでは、大規模ではないので”ルネサンス”とまで言うのは恥ずかしいですが、一塩基変異レベルの変異体を扱ったお気軽遺伝学の波はきているような気がします。

    1995年に酵母の世界に入った私は一応ポストゲノム世代なのですが、古典的な遺伝学が好きで酵母に興味を持って研究してきましたので、古典的なスクリーニングはとっても身近なアプローチです。ただクローニングストラテジーをデザインするところや実際にクローニングを行うところでつまずくなど、マンパワーがない身分としては、SGAも含めてこれまでそれほど気楽にスクリーニングするという状況ではありませんでした。

    ところが、安価なNGSシステム登場のおかげでとっても気楽にMutationの同定ができるようになり(昨年度たまたまMiSeqがたまたま研究室と研究所に導入され、導入の際におまけでついてきた試薬の使用期限が切れそうなので使ってもいいよということになり使い始めた訳ですが…)、全く検討がつかなかった現象の関連因子や関連する制御機構の概要を短時間でつかむことができるようになってきました(細胞増殖系の現象なので、予想外のessential geneが多くとれてきました)。

    実際には、テクニシャンと二人で片手間で実験するペース(EMS処理〜シークエンシング〜SNPsの絞り込みまで)で、適当に選んだ47/48変異体クローンの原因変異点の同定or絞り込みを2ヶ月弱で出来ています。

    時間的にお気楽にForward Geneticsができるのは、小規模で酵母研究をしている方々にとっては革命に近いインパクトがあるような気がします(Backcross一回だけ出来ればいいので、面倒なクローニングストラテジーや相補性試験を無視してスクリーニングをデザインできる点もつぼにはまっています)。

    学生さんのテーマからつまらない”クローニング”ネタがなくなるとき”ルネサンス”が訪れたと言えるのかもしれませんが、酵母遺伝学者ひとりひとりがオリジナルの現象をもって”自分の箱庭”のような気軽さで遺伝学ができるようになれば楽しくなるような気がします。

    飯田

  6. 飯田さんこんにちは!コメントありがとうございます。

    シーケンサーなどが簡便になってforward geneticsルネッサンスが起こることに疑いの余地はありません。またLab evolution実験なんかもこれからますます加速するでしょうね。

    私はシステムバイオロジーの観点から生命を構成に俯瞰したい場合はまだまだ大規模reverse geneticsが強いのかなと思っています。

    • 大西雅之

      飯田さん、はじめまして。よろしくお願いします。

      「お手軽遺伝学」すでに始まっているようですね。技術革新のおかげで、小さなグループでもアイデアで勝負できる時代に戻りつつあるとすれば、すばらしいですよね。私自身いつも少ないマンパワーで研究しているので、今後が楽しみです。

      DLさんや所属ラボの教授と笑い話をしていたのですが、10年前だったら遺伝学の試験で「酵母変異株を取得したあと、どのように原因遺伝子を同定するか」に対する典型的な誤回答が「ゲノムをシークエンシングする」だったのですが、現在はこれが正解になっています。「Backcross一回」の部分は良い遺伝学のテスト問題になりそうですね。

      また、Backcrossをすぐに出来る、大量のprogenyを集められるという、他の生物に対する酵母の強みが、ゲノムシークエンシングの時代に再び脚光を浴びそうです。
      (ただし、「酵母でしか出来ない」ことが技術的なインパクトを下げる、という逆説的な問題もあります。)
      その意味で、昨年のYGMB Meeting @ Toronto で発表のあったような、”High-throughput tetrad analysis”のような技術も重要になってきそうです。
      http://abstracts.genetics-gsa.org/cgi-bin/yeast12s/yeast12s?title=tetrad&sort=ptimes&sbutton=Detail&absno=12560303&sid=761586

      谷内江さん、
      システムズバイオロジー的研究にはコレクション系プラットフォームがまだまだ強い時代が続きそうですね。これを一塩基単位でやるには、ポピュレーション中に数千分の一の確率で存在する変異アリルについて、世代間での増減を定量的に検出する技術が必要になります。何か上手い方法がありそうですが、単純に read depthが10Mとかになる方が早いですかね。

      ふと思ったのですが、破壊株コレクションを使った実験は一般的にForward Geneticsなのでしょうか、Reverse Geneticsなのでしょうか。例えばカルシウム感受性を調べるとすると、「変異株プールの中からカルシウム感受性株・耐性株を見つけ、遺伝子を同定」していると考えればForward Geneticsですし(遺伝子を同定する部分が大幅に簡略化されているだけ)、「各遺伝子破壊株についてカルシウム感受性を測定」していると考えればReverse Geneticsです。SGAでも同じ事が言えます。
      結局は、実験従事者が新しい遺伝子を見つけようとしているか、全遺伝子のネットワークを見ようとしているか、というだけの違いで、実際の実験操作は同じなのですが、どちらとも取る事が出来るのは面白いな、と思った次第です。

  7. なるほどー、確かに定義がわかんなくなりますね。破壊株コレクションや(仮にあったとして)一塩基変異コレクションに対してバルクでphenotypingをかけてそれがスクリーニングならforward geneticsかも?まるごとphenomeをやるなら大規模reverse geneticsかも?多分システムズバイオロジー的な再構成は後者に立つことが多い気がします。でもreverse geneticsを定義付けるのがゲノム情報を元にしたgenetic treatmentで、それ以前の方法論がforwardなのであれば両方ともreverse geneticsでしょうか?

  8. ForwardとReverse Geneticsの定義ですか。一塩基レベルとか今までForwardでしか扱えなかったものまで簡単に解析できるようになるとその境界が曖昧になってくるような気がますよね。同感です。

    ただ、もともとForward geneticsの性質として表現型と遺伝学的振る舞いの違いから遺伝子を定義して解析を行うというのが大事な点です。このときゲノム中の変異がどれくらいあるかわかっていなかったり、変異の数や場所を制御できていなかったりしても解析を進めていけるのが特徴で最大の強みです。従って、positiveなものだけをひたすら評価する(positiveな評価しか意味を持たない)場合がForward geneticsのような気がします。

    Reverse geneticsの特徴は逆に解析対象となる集団のすべて変異に対して一定の評価を与える。negativeな結果になったクローンに対しても”nagative”と意味のある一定の評価を与えられる性質があるような気がします。私が研究室に入った頃、ゲノム配列がわかって遺伝子破壊を自由にできることになったときに一定の”nagative”な評価を与えられるのは、革命的でした。negativeなものに一定に評価を与える場合、かいせき

  9. (途中で切れてしまいました)…negativeなものに一定に評価を与える場合、解析対象となる母集団の変異が有限で限定されており、それぞれの情報がわかっていることが重要だと思います(もちろんライブラリーなどの精度の問題でnegativeという評価にも一定の制限がつく可能性がありますが...)。
    そういう意味では一塩基レベルのcollectionを用いた場合、目的の表現型を指標に絞り込んだとしても引っかかってこなかったものに関しても一定の評価を与えられるのでreverse geneticsの特徴をもっているのではないかと思います。

    谷知江さんがおっしゃるように、
    >reverse geneticsを定義付けるのがゲノム情報を元にしたgenetic treatment
    というのがきほんですが、例えば必須遺伝子のtsをPCRでmutagenizeしてスクリーニングする場合はどうでしょうか?
    (私は、ゲノムではなくて遺伝子レベルにはなっていますが解析対象となる変異の情報をあらかじめ持っていない時点でforward geneticsの範疇になるのではないかとおもっていますが…。)

    ただ、一塩基レベルのcollectionですが、ORFに限定したりしてある程度一塩基の違いを安定に維持できる状態でないと現実的ではないですね。実際にWTと呼ばれるものをsequenceしてもクローン(single colony)によってかなりSNPsやDIPsが出てくる現状を見ていると制御できるといわれても信頼度が??ですね(特にterminatorとかnoncodingのところでは頻繁すぎるようなきがします)。

    EMSのような変異導入剤をもちいてランダムに変異を入れても集団を全部読んで統計的に評価できるようになって一定の”negative”な評価を与えられるようになれば、全方向遺伝学?? (“omni-genetics???”) みたいなことがいえるのでしょうか...(50%のサバイバルでEMSで処理すると分裂酵母では200~300程度の変異が入りますので制御するのが難しいかもしれませんが)。想像するだけでわくわくします。

    飯田

  10. Forward genetics と Reverse geneticsに関する皆さんの議論を伺っていて、分生でのワークショップの良いネタだと思いました。「酵母のgeneticsは両者の区別ができないところまで発展してきている」というところでしょうか?両者を融合したような新しい名前(概念)が必要なところに来ているのかもしれませんね。

  11. 一塩基レベルのコレクションはあくまで仮想でしたが、存在したとしたらそれなりに面白いと思います。完全なintegrityを保証したコレクションはこれに限らず存在できませんが、現在の破壊株でもすでに大量にあるような、suppressor mutationやrandom mutationなんかは正に

    > EMSのような変異導入剤をもちいてランダムに変異を入れても集団を全部読んで統計的に評価できるようになって一定の”negative”な評価を与えられるようになれば、

    bulk segregant analysisやxQTLのような方向で扱っていくことができるかもしれません。

  12. 守屋さん、

    私は議論したいこと一つあります。Jef Boekeたちが酵母ゲノムを合成していますが、これ各遺伝子のサイドにloxPサイトを入れたりあとで改変しやすいようなトリックがいくつか入っています。しかしながら当然彼らの当面の目標は酵母ゲノムの人工合成自体なので出来た酵母が酵母研究にどれだけ有用かということはあまり練り込んで設計されていません。

    今からオールジャパン体制で一つか二つ酵母ゲノム全体を合成するとして、どんなトリックが盛り込まれた人工酵母株が多くの酵母研究を促進できるドリーム酵母でしょうか?

    議論してみませんか?

  13. 谷内江さん

    なるほど、作る視点からの酵母研究ですね。そうなると私は「ミニマル酵母ゲノム」を作ろうとしている(いた?)グループにも登場していただいて「ガチ議論」をやりたいですね。

    ちょっと本題からずれますが、例えば私の視点からだとロバストネスのトレードオフがゲノムにあるのかを知りたい。現在の酵母ゲノムは最適化されているのか、酵母を酵母たらしめる(酵母というシステムをロバストに保つ)「拘束」がもしあるのだとしたら、それを外すとどうなるのか? Boekeがやろうとしていることの先にもこれはあるのかもしれませんが。

    話をもとに戻すと、米国のグループは本当にこういう「トリック」を考えるのがうまいですね。バーコードがまさにその例でしょうが。皆で議論して詰めていく事ができるからだと思います。谷内江さんの提案も、今度のワークショップorプレワークショップでやりましょう!!

    というか、ワークショップ&プレワークショップについて、コロキアムのエントリーでちゃんと告知しないといけませんね。・・・まあそれはもう少し詳細が詰められてからということで。

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